「意味のイノベーション」は、ものごとの意味をどう変えるかがポイントとなります。そのために重要なことは「意味の解釈」です。しかし、目的や仕様によって、すでに付与された意味を変えることはなかなか難しい。そこで、今回は街歩きを提案します。目に入ってくる風景を自分なりのテーマを作って眺めてみることで、これまでとは違った解釈が生まれます。
どの街にも共通してあるものが意味を解釈するトレーニングに
ミラノの街のなかで意味を探る散策をしています。特に建物の窓を見ながらの散歩がすこぶる面白い。今回は窓観察から得られることをお話ししましょう。
窓観察を始めたきっかけは、数年前、イタリア人のカーデザイナーと話しているときのことです。日本では自然豊かな環境に身をおくことで、コンセプトを思いつくデザイナーが少なからずいるという話をすると、「山や海はリラックスするために行く。デザインコンセプトは歴史のある街を散歩するに限る」という答えが返ってきました。
それから私は街歩きのたびに、あのカーデザイナーは街の何をどのように見ているのだろうと考えるようになりました。「歴史」というキーワードを頼りにすると、彼が見るのは店舗のショーウインドーではない、ということは分かります。街の歴史とディスプレーは直接的な関係がありません。では、建物の様式から建てられた時期を推測したりするのでしょうか。しかし、それも自治体の都市計画局のデータを探せばすむことで、あまり意味がありません。
そうやって思いあぐねているとき、窓はどうだろうと思いつきます。窓の周囲の装飾には見るべき要素が多く、20世紀前半の建物の外壁には植物や花などが描かれている場合もあります。そうした時代の変化の表れが、見ていてとても楽しい。建物全体を眺めていても、意味の解釈はボンヤリとしたものにしかならないことに気づいた私は、窓に焦点を合わせた意味探しの散策を始めました。
ただ、この観察に一つの制約を設けます。それは建築史や都市の読み解き方といった本や資料に一切触れないことです。実際に自分の目で見たものだけで解釈するのです。かつて、トリノに住んでいた頃、ひたすらバロック様式の街並みを半年ほど眺めることで、バロック様式について自分なりの言葉を獲得できた経験がありました。同様のアプローチを試みます。