経済成長と社会課題解決が両立する超スマート社会の実現に向けて、各分野の先端技術が集結する──。CEATEC(シーテック)は、海外からの参加を含む数多くの企業やスタートアップ、教育・研究機関などが出展する日本最大級のテクノロジーの祭典だ。今年度は10月17〜20日の会期で開催され、最終日のカンファレンスには、「デザイン」をメインテーマに据えたパネルディスカッション「デザインの日×CEATEC連携セッション〜未来を拓くデジタル×デザイン思考〜」がお目見えした。進化し続けるデジタル社会においてデザインが果たすべき役割とは。官・民それぞれの立場で意欲的にデザイン活用に挑む3人のパネリストによる議論の一部を紹介する。(ダイヤモンド社 音なぎ省一郎、撮影・まくらあさみ)
多様化する世界でビジョンを可視化する難しさ
スマホ一つで世界中の情報が手に入り、リモートで働き、友人とつながり、必要なときに買い物や医療のサービスが受けられる……。近年のデジタルテクノロジーの目覚ましい普及は、私たちの暮らしを大きく変えた。とはいえ、優れたテクノロジーから自動的に「使いやすさ」や「楽しさ」「豊かさ」が生まれるわけではない。技術を誰のために、何のために、どう使うか。さらには、その先にどんな社会を構想するか──という「デザイン」が、ともすれば技術以上に重要な役割を果たしてきたのだ。
そんな「デジタルとデザインの関係」を改めて考える場が本セッションだ。パネリストは、デジタル庁の初代チーフデザインオフィサー(最高デザイン責任者)から事務方トップのデジタル監に就任した浅沼尚氏、NECのチーフデザインオフィサーとして大企業のデザイン経営に取り組む勝沼潤氏、経済産業省でデザイン政策を進める美大卒の官僚・原川宙氏の3氏。デザイナーをファーストキャリアとし、現在は官・民それぞれの立場でデジタルサービスの社会実装に関わるキーパーソンが集まった。
冒頭、ファシリテーターの渡辺真理氏(アナウンサー)からの「理想のデジタル社会とは何か」という問い掛けに対して、浅沼氏は、デジタル庁のミッション<誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化を。>を紹介。「デジタル化は目的ではなく、あくまで豊かな社会を形成するための手段。技術に人間が合わせるのではなく、技術が人間に寄り添い、誰でもデジタルの恩恵を受けられる仕組みを作り上げるのが政府・行政の責任」と口火を切った。
続いて「理想の社会を実現させるためには、人間中心の価値にフォーカスしたビジョンを示すことが重要」と語ったのは勝沼氏だ。一例として、1979年の元日にNECが出した新聞広告が会場に示された。そこには『鉄腕アトム』や『ブラック・ジャック』といった手塚治虫作品のキャラクターが登場し、テクノロジーが人間の良き友人として暮らしや経済を支える未来像が生き生きと描かれている。
「こうした輝かしい未来像が人々の夢をかき立て、社会を発展させる原動力になっていく。テクノロジーをテクノロジーとして見せるのではなく、そこから生まれる人々の価値の観点で未来を描き理想的なデジタル社会を示すことが、デザインの重要な役割」(勝沼氏)
原川氏は「ビジョンを描くことは非常に重要。しかし、価値観の多様化が進んだ今、誰もがワクワクできる理想の未来像を描くのが難しくなっている。誰一人取り残されない未来を創るためには、デジタルデバイド(情報格差)の解消や、多様な価値観の包含が大きな課題」と指摘。
これに応じてファシリテーターの渡辺氏から、技術の進歩に期待しつつも、テクノロジーに取り残されている不安感があるという生活者視点の心情が語られた。
どれだけ素晴らしい技術でも、むき出しでそこにあるだけでは、情報やスキルを持たない人々をかえって遠ざけてしまう。技術だけを暴走させず、絶えず人間側へ引き戻す視点は、今後ますます重要になっていくだろう。