徳力 それの、どこにおもしろさを感じたんですか。

石川 逆に言うと、Eコマース単体にそれほど価値がないからですよね。

徳力 それは前職までの経験で、ECしかない事業はつまらないと感じていたということですか。

石川 いえ、面白いんですけど、価値がないんです。日本のEC化率を見れば分かりますよね。小売全体の10%にもいっていません。「ECのスペシャリスト」と言われてチヤホヤされていても、それがこの先も続かないことは、少なくとも2013年の後半頃から分かっていました。

インターネットだけでは完結できない

徳力 ECビジネスに限界を感じたのは、マガシークでファッション通販サイトのマーケティング部長をされていた頃ですか。

なぜ「ECの専門家」という肩書を手放したのか、ディノス・セシールCECO石川森生徳力基彦 アジャイルメディア・ネットワーク アンバサダー・ブロガー /ピースオブケイク note プロデューサーNTTやIT系コンサルティングファームなどを経て、 2006年にアジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーの一人として運営に参画。「アンバサダーを重視する アプローチ」をキーワードに、ソーシャルメディアの企業活用についての啓蒙活動を担当。2009年2月に代表取締役社長に就任し、2014年3月より取締役。2019年6月末で退任、7月から現職。同月 ピースオブケイク noteプロデューサー/ブロガーにも就任。 提供:Agenda note

石川 いえ、SBIで社会人になった当初から感じていたかもしれないですね。これから、すべてがECに置き換わるんだと思って業界に入ったわけですが、深く潜ってみると、ECはたしかに便利だし、一部を代替する可能性はあるけれど、だからと言って店舗が消えるとは思えなかったんです。

 結局ECは、どこか別の場所で興味をもって購入を決めた後にしかアプローチできてないんです。しばらくは、その意思決定の場がWEBになる時が来るんだろうと思いながら見ていましたが、それが大多数になることは「一生ないな」と確信しました。

徳力 欲しいと思ったものを買うツールとしては便利だけど、欲しいと思わせるきっかけにならないということですよね。

石川 そうです。だから、EC至上主義のような考えはズレていると思いました。それを確かめるために、EC専業の事業会社に行こうとマガシークに行きました。色々経験させていただいて、ECだけで100億円の売上を作るすごさを実感しましたね。良い意味で、再現性が低いビジネスになっていました。

徳力 どちらかといえば、ECをツールとして広く活用できる形にしたいと。

石川 はい。だから、一度TUKURUで社長を引き受けたんです。その業界のECとしてはトップの規模にできました。結果、EC単体で価値を生み出そうとすることに意味はないなと確信しました。ECが強くなくても、顧客に素晴らしい価値提供ができている会社は他にもありましたので。

 とはいえ、そこで少しは新しいことができたと思っています。徳力さんに言うのもなんですが、発信力のあるブロガーさんたちに協力していただいて、一緒にコンテンツや商品をつくっていたんです。

徳力 単純に商品をWebサイトに並べて売るのではなくて、インターネットだけでは完結できないことをやろうとした結果としての取り組みですね。わざわざブロガーに、実際に会いに行くという手間をかけられていたと記憶しています。