石川 そうですね、個人のトップブロガーさんに会いに九州にまで足を運ぶこともありました。アパレルと違って、菓子やパンの基本的な作り方は普遍性があるので、一度つくったコンテンツが半永久的に使えるんです。だから手間暇をかけて作ったコンテンツが資産として溜まっていくんですよ。

徳力 その一方で、ECそのものの限界が見えてしまった。おもしろいですね。今の世の中的には、D2C(Direct to Consumer)の文脈もあってECの専門家は引く手あまたなイメージですが。

石川 まあ、そうですね。ただ、それもTUKURUの時のようなコンテンツの文脈ではあっても、ECそのものではないかもしれません。

 だから当時、TUKURUのメンバーには、もっと購買ファネルの上流を押さえるプレイヤーにならないと、確実にやっていけなくなるという話をしていました。

自分なりの場所を探した結果、ディノス・セシールへ

徳力 そこで言う「ECの専門家」という存在は、すでにニーズが顕在化している状態のものを、いかにコンバージョンまで連れていけるかという設計する人ということですよね。

石川 そうですね。いくらコンバージョンの直前にあるKPIを磨けても、別のところに流れている大きな波は見えていない、という話をずっとしていましたね。

徳力 それを確認するために、ディノス・セシールが一番魅力的な場所だったということですか。

石川 ディノス・セシールはECがリーチできていなかった、上流を押さえるカタログやテレビというチャネルを持っていたんです。

 もちろん購買に一番インパクトがあるのは店舗ですが、すでに業界には髭をはやした「オムニチャネルマスターのおじさん」がたくさんいらっしゃいましたから(笑)。

なぜ「ECの専門家」という肩書を手放したのか、ディノス・セシールCECO石川森生徳力基彦氏(左)、石川森生氏(右) 提供:Agenda note

徳力 ECと従来のリアルとの組み合わせを考えたとき、自分のキャリアのポジションとして、確立できそうなところを選択したわけですね。

石川 じゃないと、楽できないじゃないですか(笑)。私がどんなにオムニチャネルと叫んでも、5番手か10番手にしかなれないなら、そんなところに向かっても意味がないですよね。

徳力 はたから見ると、あまのじゃくにしか見えないけれど(笑)。

 でも実は、すごく論理的に考えた結果なんですね。紙側や通販側にいる人たちがデジタルに目覚めれば、その道を確立できそうな気もしますけど。

石川 業界としての歴史が長いから難しいですね。私は大企業の「慣性の法則」と呼んでいるのですが、これまでの組織や仕組みの影響が強いので、従来の動きをどうしても続けてしまうんですよ。自社だけでなく、外部の大手企業も巻き込んだエコシステムが完成されているので、あれを変えるのは簡単ではない。