「世の人々に届くもの」こそいい研究だと示したい

 PDTの経営陣には元コンサルタントの村上氏や、バイオベンチャー・ペプチドリームの元CFOである関根喜之氏など、これまでもテクノロジービジネスの世界で活躍してきた人物が参画するが、創業者である落合氏と星氏は研究者の出身だ。彼らが起業の道を選んだ理由はどこにあるのか。

「大学で先生をやっていた頃から超音波に関する研究に取り組んでいました。企業との共同研究にも取り組んでいて、あるとき研究成果の特許を共同で出願しようとなったんです。ですが大学側と企業側で特許に対する考え方にズレがあって、共同出願自体がなくなることがありました。それで(研究成果が世に出ないのは)はつまらないと思ったんです」

「学生の頃は『研究者というのは、(未来を見据えた新しいことをするために、あえて)社会実装を目指さないのが美学』という考えに染まっていたこともありました。ですが、そうじゃない。『社会実装され、繰り返し使える。そして世の人々に届く。それでいて技術も新しい』というものこそが、いい研究だと示したいと思ったんです」(星氏)

IPOすれば研究開発費はまかなえる

 研究者としての思いを語った星氏に対して、落合氏は日本の研究者を取り巻く「お金」の課題を語った。

「まず、研究開発費が米国と日本では全然違います。起業前にMicrosoft Reserchのインターンをしていたのですが、日本に戻ってお金(研究開発費)が少ないことに驚きました。また運営費交付金(国立大学の補助金)は、2005年から2017年で1000億円くらい削られており、一方でJST(国立研究開発法人 科学技術振興機構)からはその間に1000億円ほどの補助金が交付さています。それ自体はゼロサムな状況です」

「ですがVCマネーを見ると、この数年で増え続けています。もちろんすべての会社がそうだというわけではありませんが、IPOして調達できる資金があれば、その額で多くの研究開発費はまかなえます。(アカデミックな世界で)ひたすら研究の予算取りばかりをするのもいいとは思いません」(落合氏)

 落合氏は、ピクサー・アニメーション・スタジオ共同創業者のエドウィン・キャットマル氏、シリコングラフィックス創業者のジム・クラーク氏、アドビシステムズ共同創業者のジョン・ワーノック氏の名前を挙げる。3人はそれぞれ、コンピュータグラフィックスや開発言語の研究者でありながら起業し、世界的な規模の会社にまで成長させた人物だ。