その「クセ強入居者」の一人が、これまた自称・元ヤクザだ。もっとも話を聞けば、その実はなり立てのチンピラで、下らないミスをしてヤクザ世界から逃げ出した“弱卒”ということは誰でもわかるような手合いである。
その自称・元ヤクザのおじいさんに、母の死去に伴い、大家が私に交代したので、今後の家賃は俺のところに振り込んで欲しいと告げると、間髪入れずにこう宣う。
「俺はお前のおかんに家を借りたんや。俺から家賃取るなど100万年早いわ――」
この手の入居者には、既存のルールはおろかモラルなど通用しない。まさに俺の大家としての度胸をぶつけるしかない。率直に告白すれば、入居者とはときに善悪を超越したやり取りとなることもしばしばだ。
ペットボトルに小便、コンビニ袋に大便、
部屋で新聞紙を燃やして湯を沸かす……
そんなこんなで何人かのワケあり層――エクストリーム層を相手に大家業をやらせてもらっているが、そんな彼、彼女たち入居者の中には、代金未納で水道を止められペットボトルに小便を溜め、コンビニ袋に大便を詰めて生ゴミとして出す者もいる。
だが、これでもまだマシなほうだ。中にはガスを止められているので家で新聞紙を燃やして湯を沸かす入居者もいるくらいだ。
ライターとしては確かにネタには困らない。でも大家としては迷惑極まりない。そんな入居者と日々付き合っている。
それにしても思うのだ。こんなハチャメチャな人たちでも、家を借りられる、そして暮らせるというのが今の日本の現状である。
今、日本の相対的貧困率は15.4%(出所:厚生労働省『2022年国民生活基礎調査』)だそうだ。人口にすると約1900万人以上である。俺の物件の入居者たちは、この相対的貧困層に位置する。入居者たちの手取りの年間所得は、当然というかもちろん、皆122万円以下だ。