生活保護を受ける入居者には
行政の「代理納付」が必須のワケ
前回述べたように、亡き母に進められて「エクストリーム大家」業へと足を踏み入れた俺は、これまで多くの風変わりな入居者と接してきた。最近では、今の日本の住宅事情の中で、この家業がどのような意義を持つのかということにも、思いを馳せている。
デビュー戦で好スタートを切り、気を良くした俺は、そのとき得たカネを元手に、別の物件を同じく神戸市内に買った。今度は「かつてのニュータウン」の立地にある団地の一室である。客付けは、とあるNPOに頼んだ。紹介されたのは「自称・元ヤクザ」のおじいさんだ。引き受ける際、NPO関係者からこう釘を刺された。
「お家賃は絶対に行政からの『代理納付』にしてくださいよ――」
生活保護受給の人は行政から家賃扶助が出る。これは受給者本人に渡される。そしてこれを大家に家賃として渡すのである。しかし受給者本人が承諾すると行政が受給者本人に代わって大家に家賃を納付することもできる。これが代理納付制度だ。
もっとも、この元ヤクザを自称するおじいさんには申し訳ないが、俺はこの人が自分で家賃を振り込む、もしくは手渡すことはないだろうという直観が働いた。それで、「代理納付」制度の手続きを進めたい旨を話した。
「お前は、俺から家賃を取る度胸と根性がないんかい!」
こう言って酒臭い息を吐きつつ暴れ廻り、行政への代理納付を拒む。やむを得ず、本人から振り込んでもらうことにしたが、予想通りといおうか、入居後、一向に振り込んでくれる気配すらない。
仕方なく、紹介者であるNPO関係者を交えて話をするが、らちが明かない。結局、「家族を見つけて、そちらに(今ここに居ることと家賃の支払いをしぶっていることを)連絡しますよ」とプレッシャーをかけて、ようやく代理納付を承諾するに至った。
この手の話はこれで終わらない。母が亡くなってすぐ、母が所有していた物件を相続した後のことだ。こちらは普段私が相手にしている者たちよりも、ずっとクセの強い入居者たちの巣窟だった。