秘密結社の攻撃を恐れ、
壁に渦巻き模様を描く元ホステス
極めて地味で、決して大儲けできるわけではない。でも、それだけに確実で収益性のある投資――それが「エクストリーム大家」業だ。
このエクストリーム大家とは、刑務所帰り、生活保護受給者に金融信用情報ブラック、それからDV逃避世帯などなど……いわゆる「ワケあり」で家を借りたくても借りられない人たちに家を貸す大家のことである。
ワケありな人たちだけあって、皆クセが強い。かくいう俺もエクストリーム大家だが、自分の物件に入居している人たちを見ただけでも、「ごく普通の大家ならまず音を上げるだろう」という人たちばかりだ。
そんな苦労が目に見えている「エクストリーム大家」業に、なぜ俺は足を踏み入れたのか。自身の境遇や、こうしたビジネスにうま味を見出せる時代背景も含めて、家業の内実を紹介したい。
まず、プライバシーに配慮しつつ、いくつか入居者の例を挙げてみよう。まずはひとり女性世帯で、生活保護を受給している70歳超えの自称・元ホステスだ。そんな彼女がある日のこと、大家の俺を喫茶店に呼び出して、こう言うのだ。
「あたしね、フリーメーソンから電磁波攻撃を受けてるの――」
詳しく話を聞くと、自称・元ホステスは、若い頃からフリーメーソンに狙われており、今では物件内の汚物から成分を取り出して生成された「黒注射」と「緑注射」なるクスリを打たれており、目下、生理を止められているという。
「せやからね、フリーメーソンを撃退するために、壁に緑色の渦巻き模様を書きたいんよ。ええよね?」
実際はもう描いているのである。ここでは話の最後、「ええよね?」がミソだ。事後報告なのである。だから断りようがない。うちの入居者は一事が万事こうなのだ。相談事と言いながら決定事項を押し付けてくる。