2019~20年の香港大規模デモなどで、香港の民主化を訴えて活動してきた周庭さん(27)。20年に逮捕され、懲役10カ月の実刑を受けていたが、21年6月に釈放された後、長い沈黙に入っていた。しかし先日、久しぶりに姿を現し、SNSやメディアの取材で事実上亡命することを明らかにした。沈黙の間、彼女に何が起きていたのか。何より、誰が彼女をカナダに「逃がした」のか?――出国までの彼女の足取りをきっかけに、当局の法律運用に対する疑念が吹き出している。(フリーランスライター ふるまいよしこ)
周庭さん、カナダの大学院へ
27歳の誕生日に「今後香港に戻ることはない」
12月3日、日本では「香港民主の女神」などと呼ばれている周庭(アグネス・チョウ)さんが突然、Instagramを更新した。そこで彼女は、今年9月に香港を離れてカナダの大学院で学んでいることを報告し、出発前に香港の警察と約束していた12月末の警察出頭を諦め、今後香港には戻ることはないだろうとつづっていた。
この日はちょうど彼女の誕生日だった。そんな日に、わずか27歳の若者が、自身が生まれ育ち、そしてそのために全てを捧げてきた土地に別れを告げたのだ。
その前に彼女がInstagramに書き込んだのは、2021年6月12日。19年に起きた「逃亡犯条例」改定反対デモの流れで警察本部ビルを包囲した群衆を「扇動した」として下された禁錮10カ月の懲役を終えて、釈放された日だった。「つらい半年と20日間がやっと終わった」(刑期はその後3分の1短縮された)と書き、「これからきちんと休息して体を休ませなくちゃ。あまりに体が弱ってしまったので」と短く近況に触れた後、長い沈黙に入っていた。
この間、市民が彼女を思い出さなかったわけではない。だが、警察本部包囲事件の服役は終えたとはいえ、それとは別に香港国家安全維持法(国家安全法)の「外国あるいは海外勢力と共謀して国家安全を損ねた」とされる容疑で逮捕され、保釈中の身だった彼女が一切表に姿を現さないのも、仕方がないことだと多くの人たちが考えていた。
そこに出現したのが冒頭の書き込みだったから、多くの人たちは驚きつつも、「悲しい知らせだがホッとした」と口にした。政治の話題に触れるとパンパンに緊張感が走る香港社会に、一瞬ではあったが、久方ぶりに安堵(あんど)感がふっと広がり、そこに筆者は「香港民主の女神」はいつの間にか「香港の娘さん」になっていたと気が付いた。