香港を離れる時に起きたこと
~周庭さんの告白
だが、そのInstagramの書き込み、そしてその後日本メディアの取材に答えて語った、彼女が香港を離れるまでの体験談は、香港社会に大きな波紋を引き起こした。
というのも、国家安全法に基づいてパスポートを警察の国家安全処(国家安全法関連事件担当の専門部署)に取り上げられていた彼女が「留学のためにパスポートを返してほしい」と持ちかけたところ、警察から、香港と中国の境界を越えて深センに出向くことを返還の条件として提示されたという。
中国の地に入れば自分の身に何が起こるのか分からないという恐怖を抱きつつもパスポートを取り返したい一心だった彼女は、付き添いの警察関係者5人と共に深セン入りした。そしてその手配に従って、中国共産党や中国指導者の業績や歴史を伝える展示会を参観し、また大手IT企業「テンセント」の本社を訪問し、「中国の偉大な発展ぶり」を紹介された。
深センの1日旅行中、中国の公安など公的機関が彼女に接触することはなかったらしい。だが、香港に戻ると、今度は「祖国の偉大な発展を理解できた」として警察の手配に対する感謝状を書くよう求められた。彼女は「そんな直筆書信はもう、ここ数カ月来何回も書かされた」とつぶやいている。
そして、9月中旬、カナダに向かう前日にパスポートを受け取り、トロントに向かった。だが、実際には「留学に向かう道筋で、日本に立ち寄ってはならない」と警告を受けていたことを、日本メディアのインタビューで明らかにしている。
国家安全法違反で保釈中の身
誰が彼女を「逃がした」のか?
この「告白」に対して、香港社会のあちこちからさまざまな疑念が吹き出した。そして、「周庭さんの一方的な証言ではあるけれども」と前置きした上で、「だからこそ、当局がきちんとそれらの事実について説明する責任があるはずだ」という声が起きた。
まず、親中派関係者からは、「いったい警察国安処の誰が彼女を『逃がした』のか? 国安処内部に黄色(民主派支持者を指す)の人間がいるのでは?」という批判が起きた。それは彼女の(心理的)支持者たちも知りたい点だったはずだ。
というのも、保釈中だった彼女にかけられていた容疑は国家安全法違反であり、それも「外国勢力との共謀罪」である。その彼女を、まさにその外国勢力の下へと送り出すことを認めたのは、いったい誰なのか? またどんな判断に基づいて彼女を送り出すことにしたのか?