英国皇太子はプリンス・オブ・ウェールズとかコーンウォール公爵とかたくさんの称号をもっていて、チャールズ新国王が皇太子時代は、ダイアナ妃はプリンセス・オブ・ウェールズ、カミラ王妃はコーンウォール公爵夫人だった。それでは英王室の姓は何なのかというとこれがややこしい。

 英国の神武天皇にあたる人物は、1066年に英国を征服したフランス貴族ノルマン家のウィリアム一世だが、その後、女系相続のたびに、フランス中部のプランタジネット(アンジュー)家、ウェールズ出身のテューダー家、スコットランドのステュアート家、ドイツのハノーヴァー家、同じくサックス・コバーク・ゴータ家(第一次世界大戦中にウィンザーと改称)と移ってきた。

 エリザベス女王の即位に伴い、フィリップ殿下のマウントバッテン家になるはずだったが、チャーチル首相はウィンザー家のままとすると決めてしまった。そのことは、女王夫妻の夫婦仲にも影響したほどだった。

 結局、王家の名前はウィンザー家とするが、王家を離れた王子はマウント・バッテン・ウィンザーを名乗ることになった。だから、もし、ヘンリーが名実ともに王家から離脱するとこれが姓になる。

 また、現在の王家の姓は、ウィンザーというべきかマウント・バッテン・ウィンザーというべきか、やや曖昧である。

 フィリップ殿下の姓も経緯はややこしい。なにしろ、父系をたどっていくと北西ドイツのグリュックスブルク家であって、それがデンマークの王位を相続し、その王子がギリシャ王に迎えられ、フィリップ殿下は「ギリシャとデンマーク王子であるフィリポス殿下」として生まれた。

 ところが、エリザベス女王との結婚を円滑にするために、英国に帰化することにした。そのときに、ギリシャ正教から英国国教会に改宗し、母親の実家であるドイツのバッテンベルク家(ヘッセン大公家の分家)が英国に帰化して創設したマウントバッテン家の名を名乗ることにしたのである。

 このように海外の王家の家名のあり方も、庶民とはだいぶ違うのであって、日本だけが特別というのは言い過ぎだと思う。

(評論家 八幡和郎)