もっとも、両陛下にだけは名字に当たるものは使わない。たとえば、今上天皇は徳仁という名前はお持ちで、サインされるときはそれを使われるのだから、徳仁天皇という言い方をしてもいいのでないかと思う。「現在の上皇さまでおられる明仁天皇の時代は」とかいう表現ができるほうが実用的だ。法律改正などしなくても宮内庁が認めればいいだけの話である。

 実際、英語での報道は、Emperor Naruhitoが普通である。また、上皇陛下もお名前はあまり使われないが、英語ではformer Emperor Akihitoと表記される。正式にはEmperor Emeritus (上皇后陛下は Empress Emerita of Japan)らしいが、これはローマ教皇の退位後の称号(pope emeritus)にならったもののようだ。

 陛下は昭和年間には「浩宮徳仁」と呼ばれていたが、皇太子になられてからは、「浩宮」は使われなくなった。一方、皇嗣殿下は「秋篠宮」という宮号を使い続けたいと希望されたので、皇嗣殿下になっても「秋篠宮皇嗣殿下」と呼ばれ、皇太子とまったく同じ立場になっても「秋篠宮」が名字としての機能を持ち続けている。

 もし、皇嗣殿下が「秋篠宮」を使わないことにしていたら、前例がなく規程もないのだが、悠仁さまや眞子さん、佳子さまは、「礼宮」とか「紀宮」のような新しい宮様としての名前を創設しなければならなかったと見るのが自然だ。そのことも、皇嗣殿下が「秋篠宮」を維持したいと思われた理由のひとつかもしれない。

「戸籍法上の氏」でないが
名字として使われる宮家の名

 歴史的にみると、古代豪族の多くが武内宿禰の子孫だというが、その子に武内氏があるわけでなく、履中天皇などの時代である5世紀の初めに活躍した武内宿禰の子供である葛城襲津彦やその兄弟あたりから名字らしいものが登場し始める。

 天皇家(皇室)の一族が他の豪族からどのように呼ばれていたかは不明である。

 王者としての天皇は、スメラギ、スメラミコト、オオキミなどと呼ばれていたが、この時期は文字の使用が一般化されていなかったので、表記が問題になることはなかった。

 しかし、外交文書や律令において漢字表記が必要になったため、公式漢語表記として700年頃に天皇と確定しただけだ。