「怒り」の中にある、「事実・思い込み・感情」の分解

 安藤さんは、カスハラ対応を視野に入れたアンガーマネジメントのトレーニングプログラムも構築しており、実際に多くのビジネスパーソンが体得しているという。具体的には、どのような内容なのか。

安藤 まず、「人が発するメッセージは、事実・思い込み・感情という3つの要素で成り立っている」と理解することです。たとえば、「ここにペットボトルの水があります」という言葉は、事実だけを示しています。でも、「なんでここに水があるわけ?」と言った瞬間、そこには「怒り」の感情が含まれます。さらに、未開封のペットボトルを飲みかけだと勘違いして「ここに飲みかけの水を置いたのは誰だ?」と言えば、水があるという「事実」に、飲みかけだという「思い込み」と「誰が置いたんだ!」という「怒り」が含まれます。単純な「事実」に比べて、かなり複雑になっています。

 怒っている人と向き合うときに大切なのは、「事実・思い込み・感情」を分解して、聞く必要のある「事実」にだけ耳を傾けることです。3つが混在したままの言葉をまともに聞くと、ダメージを受けてしまいますから、相手の「思い込み」や「感情」を冷静にとらえることが大切です。

 さらに、「すること」「してはいけないこと」「しなくていいこと」を明確に分けることも重要だと安藤さんは説明する。

安藤 「すること」は、怒りという感情への「共感」です。たとえば、「お気持ちはお察しします」という言葉です。「してはいけないこと」は、「あなたが怒るのはおかしい、あなたは間違っている」という「否定」や、とりあえず謝っておこうという「不要な謝罪」。「しなくていいこと」は、落ち度がないのに「あなたのおっしゃるとおりです」と「同意」することや、「たしかに、私たちの説明は分かりにくかったかもしれませんが……」などと「弁明」することです。例外や個人的な対応をしないように、明確に線を引いておくことも大切です。