「怒り」と上手に付き合うための、「変化」の受け入れ
アンガーマネジメントの理論として、安藤さんは「社会が多様になるということは、個々人にとって“こうあるべき”という常識が裏切られて、怒りが生じる機会が増えることにつながる」と指摘する。
安藤 どんな時代であれ、変化を受け入れることができる人は穏やかに生きていくことができますが、変化を嫌う人は頑なに前の時代にこだわり、目の前の変化に対して怒り続けます。何かを変えたくないと思ったとたんに「執着」が生まれ、その執着が怒りの原因になるのです。したがって、変化の激しい時代に健全な心を保とうと思えば、変化に対する受容度を上げること、言い換えれば、執着を手放すことが重要です。皮肉ですが、「いまが最高に幸せ。ずっとこのままでいたい」と思った瞬間に、人は不幸のドアの前に立っているのです。「すべての物事は移り変わっていくものだ」という心でいれば、どんな時代であれ、穏やかに生きていけると思います。
2年前の取材時は、アンガーマネジメントの研修(*3)を取り入れている企業は約2000社だったが、その後、さらに増え続けているという。「アンガーマネジメント」という言葉の認知度が上がったことも理由のひとつだろうが、特に管理職の受講が増えているという点から、企業がアンガーマネジメントを求めている理由が見えてくる。
*3 アンガーマネジメントファシリテーター養成講座については、一般社団法人 日本アンガーマネジメント協会のホームページ参照
安藤 管理職の受講が増えている理由のひとつとして、「カスハラに対して無策であることが企業イメージを下げていくこと」への懸念が挙げられます。労働人口が減少しているいま、どの企業も採用や離職防止に神経を尖らせています。企業が、「いかにカスハラに対応するのか」ということは、「いかに従業員を守るのか」ということにつながります。ES(従業員満足度)を考えずに、カスハラ対応を社員個人に丸投げする企業だと分かれば、そこで働きたいと思う人は減り、組織としての存続が危うくなる。逆に言えば、「カスハラ対策を万全にしている」ということを打ち出せば、採用においては大きなメリットになります。カスハラ問題をきっかけに、他者や自分の「怒り」と向き合う人が増えているのはよいことでもあります。穏やかな時代ではないと冒頭でお話ししましたが、従業員を大切にする企業や、そこで働く個人の努力は必ず良い結果を導いていくと私は思います。