「システムの欠陥を隠した責任者」が未解明
富士通にはどのような責任があるのか?

 この点は、実のところかなり複雑です。

 今回の事件をあらためて整理すると、富士通UKが納入したシステムに欠陥があったこと、その欠陥があることを知らされていなかったポスト・オフィスの監察機関がつぎつぎと不正経理を訴追していったことが、事の本質です。

 イギリス政府がポスト・オフィスを詐欺容疑で訴追しようとしています。しかし、この事件で解明されていないのは、どこかの時点でシステムに欠陥があったことがわかったにもかかわらず、責任者がそれを隠していたという点です。

 その人物ないしは組織が事件の責めを負うべきなのですが、それがまだ解明されていないのです。

 ここからは、あくまで一般論で整理させていただきます。本当は個別の契約書の中身次第では話が変わる可能性もあるのですが、それは今後の裁判で開示されるであろう情報で明らかになるとして、一般的にはどのような状況なのかを解説させていただきます。

 一般論ですが、これだけの大規模な会計システムの開発契約では、開発を依頼したポスト・オフィスがそのシステムの所有および運営に関しては責任を持つケースが大半です。一方で開発を受託した富士通UKのようなベンダーは、そのシステムがきちんと動くように最大限の努力をする責任を持ちます。

 ここは細かく言えば、委任契約なのか請負契約なのかによって責任が変わるのですが、現在社会問題になっていることが手がかりとなって、上記の説明がおそらく正しいと推測されます。

 その社会問題とは、富士通UKがこれだけの問題に関係したにもかかわらずイギリス政府から引き続き巨額の発注を受けていることです。

 報道によれば過去4年間で101件、総額3700億円もの契約を獲得していて、そのうちホライズンの延長契約でも67億円を富士通UKは獲得しています。その事実が富士通UKに対する風当たりになっているのですが、逆に言えばポスト・オフィス側に主たる責任があることがこの契約から推測されるわけです。

 これも一般論として整理をすると、もしそのような状況になっているとすれば、どこかの段階でシステムの欠陥については、富士通UKの担当者がポスト・オフィス側に伝えているはずです。2009年に裁判でシステムの不具合が指摘されていたことを考えると、その前後に何らかの情報がやりとりされた可能性は十分にあります。

 ただ、それこそが今後の裁判の機微情報ということになります。

 ポスト・オフィス側でそれを知っていた人がどこまでの範囲でいるのかによって、詐欺罪で訴追される人が決まるからです。一般論で言えばそれはポスト・オフィスのかなり上のポジションまでいく可能性は十分にあります。そして受託会社である富士通としては公的な訴追や公聴会以外ではその情報は、契約上の守秘義務に抵触するために外部に話すことができないという状況になっているはずです。