睡眠というと休息の時間というイメージがありますが、私たちの脳や心身は睡眠中に複雑に多くのことをこなしているのです。同時に、働きづめの脳や心身を休ませることができるのも睡眠です。しっかり休むことで、機能が正しく働いているともいえます。

脳に備わった自然な睡眠サイクル
「概日リズム」を狂わせるな

 睡眠は人間だけでなく、あらゆる動物の3大欲求のひとつです。ただし人間の場合、食事や生殖に比べて睡眠がおろそかにされてきた歴史があります。

 今でこそ睡眠の研究が進み、ウェブや書籍などで睡眠に関する情報にいつでも触れることができますが、それでもまだ解明すべき点が多くあります。

 睡眠の役割は脳や心身を休息させることです。そして脳にとって睡眠は、溜まった老廃物の除去と、記憶の定着という2つの重要な役割を担っています。

 体内の不要物や老廃物を排出するのが大切だということは、経験としてわかっています。人間は排泄をしなければ一日だっていられません。

 脳も同じです。でも脳に老廃物が溜まっていることは自覚できません。「なんとなく頭がすっきりしない」ということがあっても、老廃物が溜まっているから掃除しなければ、とは思いませんね。

 けれど脳に老廃物が溜まるということは恐ろしいことです。認知症を予防するためには脳に老廃物を溜めないこと。不眠がアルツハイマー型認知症の発症因子だといいきる研究報告もあるのです。

 さて、私たちの体には体内時計が備わっています。細胞がそれぞれ時計を持っていて、それを脳がまとめて管理しています。

 昼行性である人間は、夕方になると覚醒物質(副腎皮質ホルモン)の分泌が低下します。代わりにグリシンなどの抑制物質や、睡眠を誘発するメラトニンの分泌が始まります。活動を司る覚醒物質と、休息を司る抑制物質、睡眠誘発物質が自然なサイクルに合わせて自動的に脳の中で入れ替わる。 それによって眠くなったり目が覚めたりするわけです。

 私たちの脳に備わったこの自然なサイクルを、概日リズムといいます。概日リズムが狂うと変な時間に眠くてたまらなくなったり、夜中や早朝から目が覚めて眠れなくなったりします。概日リズムが狂うと適切な睡眠がとれず、睡眠に問題があると概日リズムも狂ってしまうという関係です。