ここまで語った後、こう付け加えた。
「やはり進学校だけあって、どこのお子さんも勉強についていくのが大変なようです。なのでいじめやからかい、そういうのとは無縁です。親の目から見ても、娘も息子も、中学に進学してから、そうした環境に揉まれて、ぐっと大人になりましたよ」
中学受験界隈ではよく知られる「あるある話」だが、このタナカさん夫婦の子どもたちに見られる特性、その中でも高い集中力を発揮する、細かいことに気を配る、粘着質と思えるくらい決してあきらめないところといったそれは、とても受験と相性がいい。
それゆえに、公立の小学校でいじめやからかいに遭い、中学受験、私学へ進学するという話は、昔からよく耳にするところだ。
「だから、娘、息子が通うどちらの学校も、うちの子と似たような子ばかり集まっているのです。うちの子だけが特別だということもありません。皆、クセが強いです。それでも皆仲良く、和気あいあいとやっています」
特性ゆえに生きづらさを抱えている子も、個性の強い面々が集まり、またそうした生徒たちの扱いに慣れた教員が揃っているという環境であれば、生きづらさを感じることもないようだ。
入学したら「模範生徒」に
チャンレンジは始まったばかり
私立の中学高校へと進学したタナカさん夫婦の子どもたちは、小学校時代、問題児扱いされた公立の小学校時代とは打って変わって、タナカさんが保護者会などで担任教師と接する際、2人とも「大人しい模範的な生徒」と担任から言われている。
この言葉、タナカさんの娘の小学生時代、「ずっとしゃべりっぱなしで鬱陶しい」と言った公立小学校の担任教師にはどう聞こえるのだろうか。
もっとも、タナカさん夫婦と子どもたちは恵まれている。中学と高校、それぞれ初年度で約130万円、年間で約80万円の学費を、2人の子どもたちに使えるだけの経済的余裕がある家庭だからだ。対して公立校では授業料は無料。給食費や教材費が毎月約1万5000円といったところである。
発達障害を抱えている子、皆が、私学に通える訳ではない。公立の小中校でも「生きづらさ」を抱えている子たちが過ごしやすい環境作りと教員の理解が必要だ。
(カタカナ名は仮名)
(フリージャーナリスト 秋山謙一郎)