画家なら絵を描き売ればいい。音楽家なら音楽を奏でる、もしくは作曲した楽譜を売ればいい。その合間に生徒をとって教授業もできる。どちらも職人芸的なところがある。
たとえ会話ベタでも“腕”で技量を伝える講師もいる。特性を持つ2人の子どもたちにぴったりな職業に見えた。
もっとも巷では、美大や音大を出れば就職口が完全になくなるので勧めないという声もある。だがそれは、他のケースも同じ。大学で文学部を出て一流企業へと就職する人もいれば、法学部や経済学部といった「就職に強い学部」出身でも就職が覚束ない人もいる。
美大・音大でも就職はできる
だったら、今動くべき
要は人次第だ。美大や音大出身で一般企業へと進む人も、これからは増えるだろう。
そう考えるとタナカさん夫婦は、どうせ子どもたちを大学に進ませるならば、美大や音大へとやったほうが、最低限、画力とピアノ演奏の技量が残る、そしてそれは、きっと誰かからのニーズがあるものと思えた。
だったら、早くに手を打たなければならない。タナカさん夫婦はすぐに動いた。
「それまで娘は絵が好きで。息子はピアノでした。私はピアノを、妻は絵を今でも習っています。その縁もあり、子どもたちには、『本格的にプロを目指せる先生』を探し出し、そちらに通わせました」
同時に、タナカさん夫婦の間で、ずっともやもやしていたことがあった。公立の学校では、特性を抱えた子は生きにくいのではないか、という疑問である。
公立の小中と進み、公立高校の受験となると、内申点が問われる。授業中、静かに座っている。テストをすれば高得点。時に担任教師に代わってクラスをまとめ上げる。リーダーシップもあれば、サポート役もこなすフォロワーシップもあり。そういう絵に描いたような優等生タイプでなければ、難易度の高い公立の進学校への進学はまず無理だ。
すこしでもクセのある子、勉強はできるが協調性のない子――となると、公立高校の進学校への進学は厳しいものがある。
タナカさん夫婦は、良し悪しではなく、こうした公立高校への進学の仕組みは、自分たちの娘、息子には不利で合わないと思っていた。