ピーター・F・ドラッカーの著作の中でも、最も広く長く読み継がれてきた名著『経営者の条件』。タイトルには経営者とあるが、この本は「経営者にとって役立つ」だけの本ではない。それこそ普通のビジネスパーソンはもちろん、アーティスト、クリエイター、アスリート、学生、さらには家庭人としても多くの示唆をもらえる一冊なのだ。ドラッカーの入門編としても、ぴったりだ。さて、ドラッカーが教える「成果をあげるための考え方」とは?(文/上阪徹)
他人を変えることはできない
成果を出したい人、自らを成長させたい人、習慣を変えたい人、自分の強みを活かしたい人……。いろいろな人に、成果をあげるための多くの学びが得られるはずである。ドラッカーの『経営者の条件』は、経営者のためだけの本ではないからだ。
原題は『The Effective Executive』。本書でドラッカーは、知識の時代においては一人ひとりがエグゼクティブである、と唱えている。1966年の発刊だが、いまだに世界中で多くの人々に読み継がれている超ベストセラーだ。
では、この本は他の本と何が違うのか。冒頭の「まえがき」からして鮮烈だ。
本書の一つのポイントは、人をマネジメントする方法ではなく、「自分をマネジメントする」ための本だということだ。
この文章を書いている私は経営者はじめ3000人以上の人たちに取材を重ねてきたが、とりわけ多くの経営者から耳にしてきたのは、この言葉である。
「他人は変えられない。変えられるのは、自分自身だけだ」
上司が思うように応援してくれない。同僚が自分をどう思っているかが気になって仕方がない。部下が頑張ってくれない……。しかし、いくら嘆いたところで、他人を変えることはできない。他人が変わるのは、他人自身が変えようと思ったときだけなのだ。
しかし、変えられることがないわけではない。それこそが、自分自身である。自分自身を変えることで、他人との関わりを変えることはできる。それは、他人を変えることにつながる可能性がある。
だからドラッカーは、「自らをマネジメント」せよ、というのである。
成果とは、組織を通じてあげるべきもの
本書にはもう一つ、大きなポイントがある。それは「成果をあげるため」の本であるということだ。いくら自らにいいマネジメントができたとしても、成果をあげられなければ意味がない。あくまで目指すのは、成果をあげられるようになることなのだ。
そんなことは当たり前ではないか、とも思えるが、そうではないとドラッカーは説く。そもそも成果とは何か、が理解されていないからだ。
エグゼクティブの成果とは、そのような組織の中において、組織を通じてあげるべき成果である。(P.iv)
多くの人が成果とは、自らが達成する仕事のなにがしか、だと考えている。しかし、そうではない。成果とは、「組織を通じてあげるべきもの」だということだ。だからこそ、社会に対して大きな成果を生み出せる。
必要なことは、自らをマネジメントすることで自らを成長させ、その力を組織で用いて、成果を生み出していくことなのだ。そして、そうした成果こそが、仕事に向かう大きな原動力になるのである。
しかも現代社会が機能し、成果をあげ、さらには生き残れるかどうかは、組織に働くエグゼクティブが成果をあげられるかどうかにかかっている。成果をあげる者は社会にとって不可欠な存在となっている。同時に、成果をあげることは、新入社員であろうと中堅社員であろうと、本人にとって自己実現の前提となっている。(P.v)
企業にパーパスや大きな志が求められるのは、それが社会にとって、より大きな成果をもたらすことにつながるから。そしてそれは、多くの人に自己実現をもたらすからなのだ。
いくつかの簡単なことを実行するだけ
では、成果をあげるためには何が必要になるのか。当然、さまざまなものが必要になってくるだろう。だが、理解力があり、懸命に働き、知識があるだけでは十分ではない。これらとは違う何かが必要だとドラッカーはいう。
実際に本書では、成果をあげるには何が必要なのか、という点からブレずに「自らをマネジメントする」方法について展開されていく。ドラッカーが書いているように、それは「いくつか簡単なことを行う」であり、「いくつかのことを実行」することであることが本書を読めばわかる。
実は、最も大事なことは、それ以前にあった。
しかし、いまだかつて、一人として、天性のエグゼクティブ、生まれつき成果をあげるエグゼクティブに出会ったことはない。
成果をあげている者はみな、成果をあげる力を努力して身につけてきている。そして彼らのすべてが、日常の実践によって成果をあげることを習慣にしてしまっている。(中略)
成果をあげることは修得できる。そして修得しなければならない。(P.iii-iv)
成果をあげる天才というものは、いないのだ。成果をあげる人は、成果をあげる力を努力して身につけてきたのである。
ここで注意が必要なのは、「成果をあげる努力」をしてきたのではない。「成果をあげる力」を身につけてきたということだ。
努力をしている、という人は少なくない。しかし、問われるのは、何の努力をするか、である。
ドラッカーはいきなり最初から核心をついてきている。求められるのは、「成果をあげる力」を身につけるための努力なのだ。
それは、「日常の実践」を「習慣」にしてしまっていることだと書く。それは修得できるものだ、と。本書は、成果をあげる力を身につけるための日常の実践を習慣にできる本、なのである。
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『ブランディングという力 パナソニックななぜ認知度をV字回復できたのか』(プレジデント社)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。