私たちはふだん、人体や病気のメカニズムについて、あまり深く知らずに生活しています。医学についての知識は、学校の理科の授業を除けば、学ぶ機会がほとんどありません。しかし、自分や家族が病気にかかったり、怪我をしたりしたときには、医学や医療情報のリテラシーが問われます。また、様々な疾患の予防にも、医学に関する正確な知識に基づく行動が不可欠です。
そこで今回は、21万部を突破したベストセラーシリーズの最新刊『すばらしい医学』著者・山本健人氏(医師・医学博士)にご登壇いただいた、本書刊行記念セミナー(ダイヤモンド社「The Salon」主催)のQ&Aセッションの模様をお届けします。(構成/根本隼)

病院に行ったとき「医者に隠してはいけないこと」ベスト1Photo:Adobe Stock

医者が知りたいのは「時間の経過」

読者からの質問 病気でも手術でも「痛み」はつきものですが、主観的な感覚である痛みを医師に的確に伝えるには、患者はどんな工夫が必要でしょうか?

山本健人氏 患者が痛みを正確に伝えるのはとても難しいです。

 一般にはあまり知られていませんが、患者の痛みについて医師が聞きたい情報は、大きく分けて6項目あります。これは、痛みの「OPQRST」と呼ばれていて、研修医のときに教わります。

Onset…どんなふうに始まったか
Palliative/ Provocative…何をすると良くなるか/悪くなるか
Quality…性質
Region…部位
Severity…痛みの強さ
Time course…時間の経過

 患者が第一に訴えたいのは、痛みの「強さ」だと思います。しかし、「強さ」というのは、医師にとって必要な6つの情報のうちの1つにすぎません。むしろ、「強さ」はこの中では最も主観的な要素なので、必ずしも優先順位は高くありません

 つまり、患者が伝えたい情報と、医師が聞きたい情報にはズレがあるということです。

 では、医師が特に知りたい情報は何か。それは、「時間の経過」です。つまり、現在生じている症状ではなく、現在に至るまでに「症状がどのように変化してきたのか」を知りたいのです。

 持続的にずっと痛いのか、それとも痛みに波があるのか、その波は何時間おきに来るのか。これらは非常に大事な情報なので、包み隠さず医師に伝えてほしいですね。

受診時に痛みが治まっていても問題ない

 また、待合室にいるうちに痛みがある程度治まって、「1番痛いときに診てほしかったです」と残念な顔をする方もいます。しかし、医師の立場からすると、受診のタイミングで痛みが治まっていても残念には思いません

 繰り返しになりますが、医師が知りたいのはピンポイントの時点での症状ではなく、「時間の経過」だからです。なので、「受診時に痛みが治まっている」というのも貴重な情報になります。痛みが持続的ではなく、治まる瞬間もあるという事実は、病気を診断する上で有用なヒントになりうるからです。

 逆に、患者がこれらのポイントをきちんと伝えてくれると、医師も状況を把握しやすいということです。もちろん、時間の経過などは忘れてしまう場合もあると思うので、事前にメモを用意しておくと、スムーズな問診になるはずですよ。

(本稿は、ダイヤモンド社「The Salon」主催『すばらしい医学』刊行記念セミナーで寄せられた質問への、著者・山本健人氏の回答です)