一か所の農園で収穫したカカオで(他の農園のものとは混ぜずに)チョコレートを作ること。雑味がなく、ピュアなチョコレートを作るには、単一農園、単一品種で作ることは譲れないポイントです。

 そして、エンジニアだったブノワさんは、カカオを焙煎したり挽いたりする機械にも強いこだわりがあり、文献を調べあげた結果、現在は製造されていないドイツ製の機械が最適だという結論に達しました。中古品やコピー品が手に入ったので、アトリエが完成する前に2台入手したそうです。

「そもそもが、畑違いの場所からスタートしていますから、従来のやり方にとらわれず、自分のやりたいことを貫くために独自の方法を考えたり、実践したりが可能だったんだと思います」(ブノワさん)

 ブノワさんのこだわりは、まだあります。地元リエージュの人たちに楽しんでもらえるお店、というポリシーをもち、評判が高くなっても、ブリュッセル中心部にはお店を構えたくないと言います。それでも、人気があるので、ブリュッセルの住宅街に店舗を構えました。

『チョコレートで読み解く世界史』書影『チョコレートで読み解く世界史』(増田ユリヤ、ポプラ社)

 そして、2023年9月、日本の銀座4丁目に初めて出店しました。海外1号店です。東京のど真ん中に出店するなんて、ブノワさんのポリシーに合わないのではないかと心配をしたのですが、日本が大好きだというブノワさんご夫妻は、熟慮した結果、納得してここに店を構えました。

 オープニングセレモニーに私も出席し、ご夫妻に話を伺いました。苦労も多かったのではないか、と。

「朝、目が覚めて、また楽しいことが待っていると思うと、わくわくした気持ちしかありません。自分が好きなこと、やりたいことを貫いているんですから。そして、私たち夫婦は、一緒にいつも何かをやっていけることが楽しくて、嬉しくて、幸せなんです。これからも一緒にカカオ農園をまわり、自分たちの農園でもカカオを育てながら、美味しいチョコレート作りに邁進していきます」

 銀座にお出かけの際は、ぜひブノワさんのお店をのぞいてみてくださいね。