チョコレートをはじめケーキやパンなどの商品を作っているのは、店の裏手にある小さな工場。しかも、創業当時の場所で運営していて、継ぎ足しながら工場を拡張してきたので、木の床はギシギシと音を立て、まるで迷路のようなつくりでした。日本のデパートで売っている憧れのお菓子が、こんなに狭くて古い工場の中から生まれていることを知ったら、特別であって特別ではない気がしてきて、身近な温かさを感じました。

ベルギーで話題沸騰中!!
旬の「ブノワ・ニアン」

 ヴィタメールで修業をしたあと、自身のお店を構えた、という人たちの話をあちこちで聞きました。そのひとりがブノワ・ニアンさん。

 ブノワさんは、大学を卒業してエンジニアになりましたが、その仕事を続けるつもりはありませんでした。大学時代に知り合い、銀行に勤めていた妻のアンさんとともに、チョコレートのアトリエ(工場)を持つことを目標にしていました。7年間働いて資金をため、先にブノワさんが仕事を辞めて、無給でいいからと修業させてもらったのが、ヴィタメールでした。

 一通りの経験を積んだブノワさんは、修業が2年目に入った段階で、自宅ガレージに機械を持ち込み、チョコレート作りを始めました。身内や近所の人たちに試食してもらって、美味しいと言われても、仕事として通用するかはわからない。そこでプロのアドバイスをもらいたいと自作のチョコレートをミシュランで評価を受けたレストランに持ち込みました。「自信はあった」とブノワさんは言いますが、まさかいきなりその店に「うちにチョコレートを入れてくれ」と言われるとは思ってもみなかったと言います。自信が確信に変わった瞬間でした。

 確かな手ごたえを感じたブノワさん。修業時代を支えてくれた妻も仕事を辞め、ふたりで貯めた資金をもとに、世界中を旅してまわりました。目的は、良質のカカオを探すこと。世界中のカカオ農園を訪ねてまわり、個別に契約をしていきました。それだけでなく、2015年からは南米ペルーで自身のカカオ農園をもち、2022年に初めての収穫を行ったそうです。

 ブノワさんには、さらなるこだわりがいくつかあります。