ジャン・ノイハウス・ジュニアの妻、ルイーズも優れたアイディアの持ち主でした。チョコレートを贈るときに、上品に美しく、しかもチョコレートが壊れにくいギフトボックスを考案しました。台形を逆さにしたような箱で「バロタン」と言います。今ではデザインも形も豊富になりましたが、100年前には画期的なことでした。特許を取らなかったので、今では多くのブランドがこの形の箱を採用しています。

ベルギー王室御用達ブランド
「ヴィタメール」の小さな工場

 ヴィタメールは、日本にも、大阪をはじめ、東京、横浜など多くの都市のデパートに店舗があり、私自身が大ファンのブランド。

 本店は、ブリュッセルの中心地、ブランドショップなどが立ち並ぶグラン・サブロン広場に面した通り沿いにあります。この地域で最も古いお菓子屋さんで、創業は1910年。ベルギー王室御用達の店のひとつで、1999年の皇太子の結婚式の際には、デザートを任されたそうです。

 2021年に創業者の孫が亡くなってから、3人のオーナーが共同経営する形になりました。そもそもの創業者アンリ・ヴィタメールとその妻マリーは、近所の人たちのために店を開きたいという気持ちで始めたので、伝統の味を守り続けてきている一方、新たな経営陣からは、時代に合わせた改革の必要性があるという声があがっていました。

 そこで白羽の矢が立ったのが、エグゼクティブ・ペストリーシェフのレイラ・ベン・トゥミさん。生産現場の責任者です。

 取材でお会いしたときには、まだ就任して1年ほどしか経っておらず、伝統の中にも新しい風を吹かせようと試行錯誤を重ねていました。

 伝統を受け継ぐ商品のラインナップがヴィタメールの特徴。チョコレートでいえば、「サンバ」が有名で、ほろ苦いビターチョコレートムースでミルクチョコレートムースを包んだチョコレートケーキですが 、これまで円筒形をしていたサンバを細長い長方形に変えてみたり、トロピカルフルーツをはじめフレッシュな素材を入れてみたりと、小さな改革から進めていたところでした。

「少しでも変化があると、昔からのお客様から『変わったでしょう?』というお声をいただきます。でもそれは、悪い意味ではなく、9割以上は好意的なご意見です。ただ、残り1割の人はそうではないわけですから、最初の半年は様子を見ながら、恐る恐るという面もありました」(レイラさん)