新人声優のギャラは、30分枠のアニメ1話あたり1万5000円から。これでは本人も所属事務所もとうていやっていけず、声優業以外の収入が必要だ。そのために声優のアイドル化/タレント化が積極的に進められているが、声優事務所は彼らの心身のケアに手が回っていないらしい。有名声優事務所社長が語る。※本稿は『アイドル声優の何が悪いのか? アイドル声優マネジメント』(たかみゆきひさ、星海社新書)の一部を抜粋・編集したものです。
テレビアニメのアフレコだけでは
声優も所属事務所も食べていけない
声優業界ではフリーや個人事務所の人以外は基本的に声優事務所に「所属」という形をとっているので一見するとマネジメント契約のように見えます。
しかし、芸能界と比較すると、事務所の取り分が少ないことに起因して、声優業界では事務所側が《タレント=声優》に割くことのできる労力は限定されてしまいます。
そのため声優事務所がタレントに接する姿勢は、ひとりの才能を手厚く育成/フォローするというより、仕事を仲介したりスケジュールを管理したりする事務的な性格が強くなります。
極端なケースですと、声優事務所はデスクワークだけで仕事が完結します。この場合、アフレコスタジオに台本を取りに行くのは声優本人です。収録現場にもマネージャーは立ち会いません。
僕が2000年代に声優業界で本格的に仕事をするようになって衝撃だったのは、原稿チェックや雑誌やCDジャケットの写真セレクトをマネージャーではなく声優本人がしていたことです。
僕がこうした経験をした頃、アニメはいまほどには大衆化していませんでしたが、声優はブームとなって日本武道館でコンサートをやる人が出ているような状態でした。雑誌でグラビアが組まれるようにもなり、だからこそ声優が写真をセレクトしなければならない状態だったわけです。とはいえ、ギャランティーについては、市場規模に対して大きく変わることなくいまに至ります。
声優/声優事務所は、テレビアニメのアフレコによる収入だけでは食っていけません。そこで声優業界では「アニメのアフレコ」以外で、より高額な収入が発生する仕事が必要となってきました。キャスティングなどの制作業務や養成所などもそうですが、声優業界は大きくなっていった声優人気という需要もあり、声優のアイドル化/タレント化を受け入れる方向に進行してきたわけです。
声優の仕事もギャラも増えたが
事務所の仕事はそれ以上に増えた
いまや声優が歌ったり踊ったりすることは当たり前の時代になり、10代の若い世代の声優も増えました。
これはなるべくしてなった進化であったと思います。これまで裏方であった声優というタレントに付加価値をつけて展開したほうがマーケット/ビジネスは広がります。
「付加価値のついた声優」=「アイドル化/タレント化した声優」というものが生まれ、世の中に認知されたおかげで「アイドル化/タレント化した声優」は通常より多くのギャランティーを手にすることができました。