こうした仕事のスタイルが声優業界に普及した転機はどこか。正確なことはわかりませんが、肌感覚では2000年代に入ってラノベブーム全盛になった前後からではないかと思います。グループアイドルものアニメの本数が、爆発的に増加し始めた頃です。
「アイドルマスター」シリーズなどの人気タイトルを始め、2010年にスタートした「ラブライブ!」シリーズなどの後発タイトルが続き、相乗効果でそういったジャンルの人気がどんどん上がったのが、その時期だったのではないでしょうか。
人気声優は1970年代から
すでに顔出しで人前に出ていた
ただ、ここでひとつ補足しておきたいことがあります。この頃に変化があったことはたしかですが、しばしば「昔の声優は裏方仕事だったのに、最近は変わってしまった」とおっしゃる方がいます。これは間違いです。
声優の名前がファンに認知されたり、作品の宣伝のために人前に露出すること自体は、第一次アニメブーム(1970年代後半~1980年代前半)の頃から行われていたことです。いまのブームもこの延長線上にあります。
ラジオやテレビが誕生してから、ラジオドラマや吹き替えによって「声優」という職業が生まれた頃から、声を演じる役者に注目は集まっていました。僕が声優の存在を初めて意識したのは、特撮人形劇の『サンダーバード』でした。
子どもの頃(1970年代)にテレビで見ていたら、母親が「ペネロープ(『サンダーバード』の登場人物)の声は黒柳徹子さんなんだよ」と教えてくれたんです。
黒柳徹子さんは子ども番組でも数多くのキャラクターの声優をされています。それ以降も、テレビで吹き替えの洋画を見るたびに、誰が出ていて、その人はほかにどんな役者を吹き替えているのか、なんて話をしていました。
そのあとも、1970年代後半の『宇宙戦艦ヤマト』のブームの頃には、古代進役の富山敬さんを始め、声優のみなさんが表舞台に出ていましたし、1980年代の『機動戦士ガンダム』のときにはもう、声優が人前に立つのは自然なこととして社会に受け止められていました。
アイドル的な活動としても、スラップスティック(野島昭生、古川登志夫、古谷徹、三ツ矢雄二〈敬称略〉らが結成していたバンド)がありました。1970年代の時点で、既にそうした現在のタレント化した声優に繋がる活動があったのです。