「課長、ご相談がありまして」
部下の顔つきに退職を危惧
当時、私はついに取引先課長となり、八潮支店に勤務。法人取引を担当し、部下が5人いた。みんな入行から間もない若手。社会人としてのイロハと、営業の基本を教えなければならないヒヨッコばかりで、営業成績うんぬんどころではない毎日だった。上からの数字への圧力が厳しく、それこそ生きた心地がしなかった。
それでも課長として初めて部下を率いて、小さくても一国一城の主になったような、例えようのない高揚感があった。支店長や副支店長から理不尽な仕打ちを受けようが、その思いだけで乗り切っていたのだと、今となっては当時を振り返ることができる。
5人の部下たちは、お世辞にも優秀とは言い難かったが、それでも彼らにとっては私が最初の課長である。なんとかこの仕事のやりがいや醍醐味を知ってもらおうと、粉骨砕身となり一緒に取引先を駆け回っていた。
ある日、3年目の二宮君が食堂で声をかけてきた。
「課長、ご相談がありまして」
神妙な顔で部下から「相談がある」と言われると、高い確率で「退職したい」と続くのは、私の中で「銀行あるある」のひとつになっている。
「おお、飯食ったら休憩室に行くわ。待っててくれるか?」
「はい」
食事をそこそこに終え、トイレで歯を磨き休憩室に行くと、二宮君がひとりで待っていた。
「ほら、飲めよ。ミルクと砂糖入り、ブラック、どっちだ?」
「あ、すいません。じゃあ、ブラックで」
食堂の自販機で買った缶コーヒーを手渡す。
「どうした?」
「あの…」