「ざけんなよ!辞めさせろ」
ボランティア休暇にブチ切れる支店長
ふと気づけば二宮君の熱弁が終わっていた。いや、内容は特に目立ったものはなく、ただボランティア休暇を取り、東北の被災地に行って復興を手伝いたいということぐらいだった。動機はよくわからないが、居ても立ってもいられない衝動が彼を突き動かしていることだけはわかった。
「わかった。支店長には俺から報告しておくよ」
「お願いします!」
「さて、どうしたもんかな…」
独り言が自然と出た。二宮君は立派だと思う。ただ、支店長へどうやって切り出そうか、そのことばかり思案していた。夜8時頃、静まり返ったフロアは私と堂島支店長の二人きりとなった。
「支店長、今、少しよろしいですか?」
「なんだ?」
PCのモニターから目を逸らさず、生返事で一心不乱にキーボードをたたき続けている。
「二宮なんですが、ボランティア休暇を取得したいと言ってまして…」
「意味わかんないな」
「ご存じありませんか?ボランティア休暇とは…」
「違う!なんで二宮がボランティアなんだ?」
「は、はい…震災の復興を手伝いたいらしく…」
「ざけんなよ!笑わせるのもいい加減にしろ!誰かを助けるとか、カッコいいこと言える立場か?え?アイツさあ、メンタルなの!わかる?メ・ン・タ・ル!助けてもらうのは自分の方じゃないんか?アイツ、仕事してないじゃん。1円も稼いでないんだぞ。サボりたいだけじゃねーかよ」
「支店長、ボランティア休暇は人事制度なんで、本人が希望した場合は…」
「辞めさせろ」
「は?」
「退職だよ、退職。退職してくれたら、後はどこにでも行けよ。何度も言ってるだろ?オマエ、なめられてんだよ、ガキどもに!この話はもうやめ!忙しいんだよ!」
だろうな…堂島支店長の反応は想定通りだった。しかし、あんな言い方はあんまりだ。確かに二宮君は心の病を抱えているが、誰かのために役に立ちたいという思いまで踏みにじる立場にはいないはずだ。