「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。戦略とは何か。変化の時代に、企業は何を問い直すべきなのか。本連載では、さまざまな経営・組織の悩みをもとに、坂田氏に話を聞きながら、同書の思想を現在進行形の課題へと引き寄せていく。

生成AIを入れたのに全く成果が上がりません。どうすればいいのですか?Photo: Adobe Stock

なぜ「生成AIを入れたのに何も変わらない」のか?

――今回のご相談ですが、ここ1年で急激に増えているテーマです。どう見ていますか?

 多くの企業で共通しているのは、「生成AIを導入すること自体」が目的になってしまっている点です。もちろん、新しい技術を試すことは悪いことではありません。ただ、生成AIはあくまでツールにすぎません。ツールを入れただけで成果が出るほど、経営は甘くありません。

 本質的な問題は、「何のために使うのか」が明確になっていないことです。目的のないまま導入してしまうと、今やっている業務をAIで“置き換えただけ”で満足してしまう。それでは会社は何も変わりません。

――「目的がない」というのは、もう少し具体的に言うと?

 たとえば、「販管費を30%削減する」といった数値目標です。

 こうした目的が最初にあって、初めて「そのために、どの業務をやめるのか」「どこに生成AIを活用するのか」といった議論が意味を持ちます。

 しかし多くの企業では、「とりあえず生成AIを入れてみよう」「現場で自由に使ってみよう」という順番になってしまっています。この時点で、失敗はほぼ確定しています。

――「とりあえず使ってみる」では、なぜうまくいかないのでしょうか?

 生成AIは、使えば何かが自然に良くなるような魔法の道具ではありません。

 目的がないまま導入すると、「今ある業務を、少し楽にこなす」方向に最適化されてしまう。

 結果として、仕事の総量も構造も変わらないまま、「便利になった気がする」で終わってしまうのです。

ボトムアップの強みが、
逆に“無駄”を量産する理由

――日本企業ならではの問題もありそうですね。

 確かにあります。日本企業の強みは、現場力とボトムアップ型の組織運営です。「今ある前提」を少しずつ良くしていく平時のオペレーション改善では、それが非常に強力に作用してきました。

 一方、生成AIのような前提そのものを問い直す「構造変革」が求められる局面では、この強みが逆効果になります。

 トップが明確な方向性を示さないまま現場に任せてしまうと、各部署がそれぞれ独自にAIを導入し、バラバラに最適化を進めてしまうのです。

 これは、かつてSAPなどの基幹システムを導入した際にも何度も起きたことです。結果として、システムは複雑化し、販管費は一向に減らない。生成AIでも、同じことが繰り返され始めています。

――米国企業との違いはどこにありますか?

 米国企業では、トップダウン型の意思決定が基本です。ジョブ型で組織がモジュール化されており、

 ・何をやめるか
 ・どこに資源を配分するか

 をトップが明確に決めます。

 一方、日本企業はボトムアップが前提です。「現場が考える」文化そのものは決して悪くありません。

 しかし、答えがない時代においては、方向性や資源配分が不明確なまま現場に任せると、組織は混乱してしまいます。

「減らす・捨てる」を決められるのは、
トップしかいない

――生成AI活用で、最も重要なのは何でしょうか?

 生成AIの導入は、「どの仕事を残し、どの仕事を捨てるか」を決める行為です。

「AIに任せるべきか、人がやるべきか」を議論する前に、まずやめるべき業務を明らかにすることが出発点となります。たとえば、以下のようなものです。

 ・価値を生んでいない業務
 ・結論が出ない会議
 ・機能していない中間管理職の役割
 ・なんとなく導入されたITシステム
 ・惰性で続けている業務プロセス

 こうしたものを捨てない限り、AIを導入しても意味がありません。

――でも、現場ではなかなか「捨てる」決断はできませんよね?

 おっしゃる通りです。これは現場の一存では決められません。役割や評価、組織の前提を変える判断が伴うため、必然的にトップの決断が必要になります。

 したがって、問題は「トップが何も決めていないこと」にあります。

 重要なのは、勘や感覚ではなく、業務ごとに価値を試算することです。その上で、価値を生んでいない業務をやめる。その判断を、トップが責任を持って下すことが不可欠です。

「生成AIを入れて成果が出ない」
企業への処方箋

――「答えがない時代」だからこそ、トップの役割も変わりますね。

 その通りです。トップが細かいやり方まで決める必要はありません。

 ただし、「方向性」と「資源配分」だけは必ずトップが決めなければなりません。この資源配分には「捨てる」という決断も含まれます。

 何かをやめてこそ、人・時間・お金といった資源に余力が生まれる。その余力を使って、ようやく新しい挑戦ができるのです。

 生成AIは、その「余力」を最大限に活用するためのツールにすぎません。

――最後に、相談者へのメッセージをお願いします。

 まずやるべきことは、「コストを30%削減する」「この部門の業務量を半減させる」など、数字で具体的に示すことができる明確な目的を設定することです。

 その目的に照らして、やめる業務を決めて、捨てる資源を決める。その後に、初めて生成AIの出番があります。

 生成AIが成果を出さないのではありません。「目的なき導入」が、成果を出せなくしているのです。順番を変えれば、結果は必ず変わります。

――ありがとうございました。非常に示唆に富むお話でした。

坂田幸樹(さかた・こうき)
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。