埼玉出身の二宮君が
打ち明けた予想外の相談内容

 やはり退職か?言いづらそうだ。

「東北の地震を見て、大変そうで。僕、ボランティアに行きたいんです」

「ボ、ボラ…?」

「ボランティアですぅ。今日発信された本部からの通達を読んで、ボランティア休暇を利用して復興の力になりたいと思いまして」

「す、すまん。俺はその…ボランティア休暇の通達というのを読んでなくて、二宮の気持ちはわかった。それで、どのくらいの期間、その現地に…」

 すっかり退職の相談かと思いきや、まさか復興ボランティアに参加したいとは予想もしていなかった。面食らったのが正直なところだ。

「そ、そうか。二宮君は東北出身だったのかい?」

「いえ、埼玉っす。東北は関係ないんですが、テレビ見てて、大変だなって」

「ああ、大変だよな」

「なんか、ボランティア休暇というのがあって、それを使うと最大3カ月までボランティアに参加してもいいらしくて…」

 熱っぽくしゃべり始める二宮君の口元を見ながら、私は別のことを考えていた。二宮君は入行1年目の秋、初めて担当先を持ち2カ月ほどたった頃、お客からの融資申し込みを握り込んでしまい、支店長からこっぴどく叱られたことがあった。

 握り込むといっても、どうしたらいいかわからず、誰にも聞けずじまいになって放置するパターンと、忙しさにかまけて後回しにして手遅れになるパターン、そもそも怠けてほったらかしにして炎上するパターンがある。

 二宮君の場合はお人よしの性格がたたり、どう対処したらいいか聞けずじまいで結果として放置してしまい、借入希望日の2日前になって社長からの問い合わせがあり、握り込みが発覚したのだ。

 取引先は幸運にも地元地銀に救われて倒産の危機を逃れたものの、当時の支店長の逆鱗(げきりん)に触れ、担当先を全社取り上げられた。それがショックだったのか、週に1日ぐらいのペースで欠勤を繰り返すメンタルに陥り、3年が経過していた。

 担当先を持たず融資の事務管理の雑用をやっていて、それでものらりくらりと自分のペースを作りつつあった。異動で転勤でもして環境が変われば、状況も変わるだろうと感じていたところだった。