いや、「家族制度が最も大事」という思想を変えられないままデジタル化しようとしていることが、無理を生じさせていると言っていいかもしれません。
たとえば、住民票が必要となる証明書は、(1)選挙人名簿への登録、(2)国民健康保険、後期高齢者医療、介護保険、国民年金の被保険者の資格確認、(3)児童手当の受給資格の確認、(4)学歴簿の作成、(5)生活保護および予防接種に関する事務、(6)印鑑登録に関する事務などに関するものがあります。
一方、戸籍(謄本あるいは抄本)が必要な証明書は、(1)公正証書遺言、(2)相続手続、(3)保険金の請求、(4)パスポートの申請、(5)婚姻届、(6)年金の請求、(7)家系図の作成などに関するものとなります。
住民票は個人・性格に対する証明、戸籍は家族関係に関わる証明に必要なことのように見えますが、これを2つに分け、所管官庁も分ける必要はあるのでしょうか。
マイナンバー導入時に
戸籍廃止の議論が必要だった
もともと各国で戸籍がなくなっていったのは、「国籍」の概念の変化と大きく関わりがありました。近代になって「国民国家」が成立し、国籍を持つことが「国民」であることが証明され、それが一種のステータスとなりました。そして、戸籍=国籍によって、参政権や兵役、公務員への就職など国家の構成に関わる権利・義務が与えられる、そのための制度であったと思います。
確かに日本は、まだまだ「日本人=日本国民」であることが多い国です。しかし色々な業界で、いわゆる「日本人」的な外見ではなくても、日本国民として活躍する人が増えていることはわかります。 そう、国際化を前提にすると、戸籍は明らかに古い制度であり、本来は、マイナンバーをつくる際に、戸籍を廃止し住民票に一本化するか、マイナンバーをもっと巨大化させてアメリカ流の社会保障番号制度にするべきかという、国の未来を見据えた議論があって然るべきでした。
実際、岩竹美加子・ヘルシンキ大学非常勤講師の経験によると、外国で結婚式を挙げても日本国籍はとれるので、戸籍謄本をとったそうです。そこには、「平成〇〇年〇〇月〇〇日国籍フィンランド国〇〇〇〇=夫の名前(西暦〇〇〇〇年〇〇月〇〇日生)とアメリカ合衆国ペンシルヴァニア州の方式により婚姻 同年〇〇月〇〇日証書提出 東京都〇〇区〇丁目〇〇番地(注・本籍地)〇〇〇〇(注・岩竹氏の父の氏名)から入籍」と書かれてあったといいます。