住むつもりのある家や使用するつもりのある田畑や山林をきちんと管理する気がある人たちが、相続登記を放置しているはずがありません。また、罰金をとられるからといって進んで登記をする人がたくさんいるとも思えません。なんだか法律のための法律、国民の面倒を増やしているだけの気がします。
被災地の復興作業についていえば、以前の記事「被災地をふみにじる『火事場泥棒』は実名公表で抑止できる【馳浩・石川県知事に直言】 (P4)」でも述べた通り、こんな面倒なことをしなくても、ほとんどの国に存在する憲法の緊急条項をつけるだけで私権制限ができるようにしておけば、簡単に済むことではないでしょうか。
マイナンバーを推し進めているのに
なぜまだ戸籍が必要なのか
そもそも私がなぜ相続登記の義務化が気になったかというと、国家公務員でさえ使用経験のある人が4%程度というアンケート結果が出ており、普及が進まないマイナンバー制度を、これだけ大々的に推し進めている一方で、国はなぜまだこんな面倒なことを考えるのか、ということです。
逆に言えば、私も含めた国民のほとんどは戸籍と住民票があり、相続登記などでもいまだに必要とされるのに、この上なぜマイナンバーまで必要なのか、理解できません。
戸籍の管轄は前述のように法務省、住民票も総務省、一方でマイナンバーの管轄はデジタル庁です。縦割り行政のツケは必ず国民に回ってきます。
調べてみると、世界で戸籍のある国は、日本の他には台湾だけです。韓国も2008年に廃止しました。中国は、本籍登録と住民登録を併せた「戸口制度」を1958年に作りました。つまり、戸籍と住民票が統合されたわけです(さらにはデジタル化とともに、「全国公民身分証明書番号センター」ができて、身分証明書にはICチップが搭載され、全国レベルでの個人データ管理ができるようになってしまいました)。
一つの身分証明書であらゆる手続きが済むことで有名なのはアメリカ合衆国で、「身分登録」だけです。ただ、これは各州でシステムが異なり、問題点があるため、実際には社会保障番号が一番の公的書類です。米国では個人識別、つまりお金や医療、その他社会保障の行政サービスにおける本人確認はこの番号が用いられているので、米国は「身分登録」の方はいい加減で、基本的に社会保障番号さえあれば生活できるようです。
他の国々のことも調べましたが、大同小異で、基本的には家族制度を中心とした戸籍制度を廃止して、個人の識別を重視する制度に変化しつつあるのが世界の流れです。
デジタル庁とマイナンバーはデジタル化という「新しそうな言葉」は使っていますが、その元となる国家による国民の情報管理制度は、戸籍と住民票という古い制度に依存しています。