夫は日本人ではないので、戸籍筆頭者の名前は岩竹さん。最後の入籍の文字の上に小さなハンコが押されており、入籍とは新たに作った岩竹さんの戸籍を意味します。さらにこの文章の下には、「妻」という欄があり、「美加子」という名前も記されていて、戸籍筆頭者は岩竹さんで、妻も岩竹さん。なんだか、夫の存在は無視されているような文章だと感じたといいます(ちなみに夫の名前は日本式に苗字が先。しかし、なぜか生年月日は西暦で、それ以外の時間表記は元号)。
自民党が夫婦別姓に反対なのも、外国人の移住に消極的なのも、なんとなくこの「戸籍」の記し方でわかってくるような気がします。
なお、戸籍上では男女の区別を書く欄はなく、長女、長男などで区別する仕組みになっています。要するに、男性中心の家族主義を基本とした国家観が「戸籍」の中にはあふれているのです。 「国会議員に女性が少ない」「日本の女性の社会的地位が低い」と世界から非難され、政府は躍起になって女性大臣を増やしたり、女性の会社役員を増やすための法律を準備したりと、女性の地位向上に努力はしています。しかしそれなら、まず「戸籍」と「住民票」の思想を変えるべきではないでしょうか。
国民の支持がないのにマイナ保険証まで
議論不十分のデジタル化は大事故を招く
そして、それを基本にしてマイナンバーの仕組みをもう一度考え直したらどうでしょうか。私は過去の記事「デジタル庁より『デジタル監視庁』を創設せよ」でも、マイナンバーについての疑問を投げかけました。
これだけ自治体から個人情報が漏れるのは、マイナンバーというツールだけでなく、それを扱う人々、その周辺の人々、そして政治家・役人の個人情報防衛への感覚が甘いことに問題があることを指摘し、「デジタル監視庁」の創設を訴えました。
マイナンバーができたと思ったら、国民が全然支持していないのに、今度は健康保険証の紐付けをしています。スピード感も大事ですが、単なる政治家の思いつきで紐付けする機能を増やすことが、システムの脆弱性を生みます。
今、マイナンバーと平行して、地方公共団体の基幹業務システム(ガバメントクラウド)の標準化も推進されています。実は、マイナンバー以上にこの問題は深刻ではないかと私は懸念しています。大体20あるという地方公共団体のクラウドを標準化して、2025年までに標準仕様にする、しかもコストカットも行う、という無理な計画が進行しています。当然、このクラウドの標準化はマイナンバーのスムーズな運営にも影響します。
しかし、戸籍をまだ残すのかという、国家の未来像に関わる大事な議論を抜きにしてデジタル化を進めても、みずほ銀行の再三のシステムエラーを上回るミスが多発すると予想します。世界の趨勢に合わせなければならないのが、特にITを中心とした世界なのです。
(元週刊文春・月刊文芸春秋編集長 木俣正剛)