クリエイティビティを開花させるプロセス

 対話と文化構築の重要性について、フォルケホイスコーレの卒業生の考えや思いを聞いてここまでまとめました。それでは今、フォルケホイスコーレで何が起きているのでしょうか。インタビューに答えてくれたデイビッドが卒業したフォルケホイスコーレを訪れました。

 そこで英文学と演劇を教えているジャスパーさんに出会い、話を聞きました。どのように授業を教えられているのですか?と聞くとこんな返事が返ってきました。

「英文学を教えるときはいつもソファに座って教えています。心地よく感じて話したくなるような空間を作ろうとしています。大学で教えるときは複雑な理論を教えますが、ここでは理論のコアとなる部分を難しい言葉を使わずに理解できるように教えています。

 例えばアートを教えるときに、「感じる」ことを教えます。彼らにとってそれが何を意味するのかということです。なぜなら生徒が本当に心を動かされなければ、何も彼らにとって価値あることが起きず、意味がないのです。心が動かされないことも起きます。ではなぜ動かされないのか、そのようなものをどう見て、どう対処するのかについて話すのです」

 ジャスパーさんにとって教えることの目的はなんですか?どんなときに幸せを感じますか?

「演劇を教えるときに、彼らから目が離せなくなったとき、つまり生徒が守りに入るのではなく、本当の人間らしさを感じたときです。そのとき彼らが興味深くなるのです。そこに達成感を感じます」

 人間らしくなるために境界線を超えるので苦労する生徒もいると思いますが、どのようにプッシュするのですか?

「自分を投資して、本当の自分になることが何を意味するのかを説明します。これは若いときの経験と関係しています。こんな経験はないですか、話しかけてくる男性は外見がよくて、ナイスなのに、なんか好きじゃないと思う。理由はわからない。男性の問題は実際の自分よりももっと頭が良くて、面白くてよく見せようとしているところです。

ジャスパーさん

 でも、うそをついていることになりますね。それだと上手くいかないんです。不信感をつくることになる。あなたはきっと直感的にこれは彼の本当の姿じゃないと思うはずです。それは俳優でも一緒。彼らは、存在感のある本物の人でなければいけない、さもなければ、観客の信頼を失うことになる。この俳優は一体なにをしているんだってね。

 でも境界線を超えれば、彼ら自身を投資することができれば、これは素晴らしいストーリーだ、となるわけです。それが大きな違いを生むのです」

 演劇の話はビジネスにも通じるところがあると思います。根本的に問題を理解すること、自分以外の人になろうとするときの周りへの影響、素直な気持ちを忘れないことの大切さに気づかせてくれます。

 最後にジャスパーさんの演劇の授業を履修しているシェランさん(22歳)の話を聞きました。演劇を学び始めてから、自分と向き合うことが増えて以前より幸せを感じるようになった、と彼は言います。そんな彼の将来の夢はアメリカで俳優になることだそうです。

シェランさん

 フォルケホイスコーレで学んだもっとも大切なことについて聞くと、「脳も体も意図的に形作れること、自分の人生はコントロールすると信じること」と答えてくれました。クリエイティビティがくれるのは、人生を自分でコントロールする力とその喜びを他人と分かち合える経験、そして彼らとの厚い信頼関係ではないでしょうか。(第4回に続く)※4/30掲載予定です


大本綾(おおもと・あや)

1985年生まれ。立命館大学産業社会学部を卒業後、WPPグループの広告会社であるグレイワールドワイドに入社。大手消費材メーカーのブランド戦略、コミュニケーション開発に携わる。プライベートでは、TEDxTokyo yz、TEDxTokyoのイベント企画、運営に携わる。2012年4月にビル&メリンダ・ゲイツ財団とのパートナーシップによりベルリンで開催されたTEDxChangeのサテライトイベント、TEDxTokyoChangeではプロジェクトリーダーを務めた。デンマークのビジネスデザインスクール、The KaosPilotsに初の日本人留学生として受け入れられ、2012年8月から留学中。
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