「クリエイティビティを使ってソーシャルイノベーションを起こしたい!」。そう願う一人の女性が、TEDxTohokuで運命的に出会った一人のデンマーク人。彼女が「人生で受けた最高の教育」として教えてくれたのが、デンマークのビジネスデザインスクール「The Kaospilots」だった。世界で最も刺激的なビジネススクールと言われるこの学校で、どのような授業が行われているのか?日本人初の留学生である大本綾さんが、世界のデザインスクール最前線での学びをリアルタイムで書き記す「留学ルポ」連載、第1回。

なぜデンマーク留学?
東日本大震災とロールモデルが教えてくれたこと

 デンマークに留学すると言うと、必ずといっていいほど「なぜデンマーク?」と聞かれます。福祉や教育についての研究をしているわけでもなく、欧州に住んだ経験もありません。

 大学を卒業して、入社したのは都内の外資系広告代理店です。営業職で大手消費材メーカーのブランド戦略やコミュニケーション開発に携わり、クライアントや同僚に恵まれた環境で、充実した生活を送っていました。ただ一つ悩みがあるとすれば「人生をかけて取り組みたいほど、本当に心から愛せる仕事のビジョン」が見つかっていないことくらいでした。

 入社して約3年が経とうとしていた2011年。3月11日に起きた東日本大震災は、私の人生の価値観を大きく変えました。余震の度に災害から逃げたいと思いながら、日々の生活があるので逃げるわけにはいかない状況の中で、今起きている問題に向き合うことを強制的に教えられたような気がします。

 震災から4ヵ月後、思い切って石巻市の瓦礫掃除のボランティアに参加しました。人の姿が見えない町でせっせと瓦礫を片付ける内に、命の儚さと何か問題が起きれば行動を起こして変えていくことの大切さを実感しました。そのときから死ぬまでに本当に実現したいこと、自分自身が抱えている問題とその向き合い方についてもっと真剣に考えるようになったのです。

 2011年10月。仙台で開催されたTEDxTohokuで人生を変える出来事が起きました。ある一人のデンマーク人の女性に出会ったのです。心から愛している仕事で社会に変化をもたらすチェンジメーカーの彼女の生き様は私にとって、まさに人生でお手本にしたいロールモデル。

 当時の私の興味は、「クリエイティビティを使ってソーシャルイノベーションを起こすこと」でした。しかし、日々の生活に追われる中で、私自身がアイディアをゼロから生み出す発想力やトライすることに自信が持てない状態でした。

「社会にポジティブな変化をもたらすアイディアを考えて実現する」。そんな風に成功を築いてきた彼女の秘密を探るため、現在に至った背景を詳しく聞いてみました。そして“人生で受けた最高の教育”といって、ある学校の話をしてくれたのです。曇り空が一気に晴れていくような感覚で、将来進むべき方向が見えた気がしました。

 帰宅してすぐにインターネットで情報を集めて、それから2ヵ月後には受験。2012年4月に合格の結果を受けました。地震と彼女との出会いから直感を頼りに行動していたら、デンマーク留学にたどり着いたのです。