クリエイティブの集合知
マルクさんは、クリエイティビティのモチベーションは対話にあり、教師と生徒の間の対話の価値について話をして下さいました。原点が見つかり、モチベーションが維持できるようになれば、次の課題は、自分の属するグループ、組織がどうすればコレクティブクリエイティブインテリジェンス(クリエイティブの集団的知性)を発揮できるのかということになると思います。
組織や社会の問題を本質的に解決するには、不可欠な要素です。そこでフォルケホイスコーレに通う生徒同士の対話に注目しました。まずはThe KaosPilotsのチームメイトでデンマークのフォルケホイスコーレに通った経験のあるリーネとデイビッドに質問しました。
リーネ(23歳)は、20歳のときに半年間ホイスコーレに通いました。最も印象に残っている思い出について聞くと、彼女はこう話してくれました。
「ある日先生が学校に泊まったとき、夜トークセッションを開いてくれたの。そこでは15人くらいの生徒がボランティアで名乗り出て、4時間ほど話をした。トピックは恋愛、セックス、友情、どうしていいかわからず悩んでいること、深く考えていることについて。
先生は事前に何か記事と質問を用意していて、みんなの話を聞いて刺激をあたえるような質問をするの。例えば外見の話になったときに、見た目がいいってどういうことだろう?誰も不細工で生まれてくるわけじゃないよね、とかね。そのとき、みんなが何を考えているのかを聞くのはとっても興味深かった。
それから物静かな友達がいて、いつもどうしてこの子はシャイなんだろうと思っていたの。そしたら彼女のお母さんは実はアルコール中毒で、祖父母と一緒にずっと暮らしていたって。その話をしているときの彼女の雰囲気が変わった。エネルギーがシフトしていくのを感じた。それで彼女のシャイな性格の理由を理解したの」
また、別のフォルケホイスコーレに半年間通ったデイビッド(24歳)が最も強烈な思い出は何かと聞くとこう答えます。
「森の中をジュリーという名前の女の子と歩いていたんだ。人生のストーリーについて聞かれた。3時間くらい話したな。とっても強烈な思い出だった。だって、誰かが自分のことについて興味を持ってくれている。自分がどんな人間なのかを理解しようとしてくれるんだ。彼女は自分に興味を持っていてくれた」
これらがクリエイティビティとは関係のない会話に思う方もいるかもしれません。私もThe KaosPilotsの授業でこのように人の原点について聞く機会がたくさんあり、それがどうクリエイティビティにつながるのか最初はわかりませんでした。しかし、自分とはまったく異なる価値観や原点を理解する内に、実際にグループでプロジェクトを進める際に彼らの原点を理解していることが、彼らの潜在能力を引き出すきっかけになるのです。
多様性のある環境で集団がクリエイティビティを発揮するには、異なる性格の人の原点を理解する必要があります。そして原点を強みにするには他人の助けが時には必要です。
The KaosPilotsの校長のクリスターに聞くと、こう言います。「クリエイティブの集合知が可能かどうか、その集団がクリエイティビティをどのように見ているかによりますが、必要なのは“文化を作る”ということです。生徒が目立つことができる文化を作るのです。他人と違うことを恐れないことです」
ポジティブな文脈で違う自分をお互い見せ合えたとき、グループの間に簡単に崩れない強い信頼感が生まれます。あらゆる問題に対して最後まであきらめずにお互いのリソースを活かして取り組む文化がそこに生まれるのです。