ヒューゴー賞に起きた「中国らしい」事態
「中国政府の介入」疑惑に対して、2023年度ヒューゴー賞運営責任者であるデイヴ・マカーティは、SNS上で「ヒューゴー賞運営委員会と中国政府との間に、公的なやり取りはなかった」と述べ、そのコメント欄では大議論が巻き起こった。また、同賞運営委員会は、「我々が従わなければならない原則とルールを再確認した結果、当該作品や人物はノミネート資格なしと判断された」とコメントしている。
しかし、その結果に納得しない業界関係者およびファンたちの間では次々に独自調査が行われている。自らもニュースジャーナリストであるクリス・バークレイとジェイソン・サンフォードの二人は舞台裏について詳細な調査を行い、その結果を公開している。
李立峯 編、ふるまいよしこ 訳、大久保健 訳
それによると、運営委員会のメンバーの一人が今回の出来事に関わったことを「恥ずべきこと」とファンに謝罪し、中国側主催者ではなく世界SF協会側の委員会内部でやり取りされたメールを公開した。その中には、マッカーティ自身が運営委員に向けて「中国、台湾、チベット、そしてその他中国に関わる問題について触れた内容をピックアップすべし……我々運営側がそれに対して法に照らして判断する必要がある」などと書いた内容も含まれていた。
この報告書では、中国政府が作品選定に具体的に影響を与えたという証拠は現時点ではまだないとし、「経済利益を鑑みた運営者側の自己規制だった可能性もないとはいえない」と論じている。が、SFファンたちにとって、暴露された委員会内のやりとりとともにかなり衝撃的な事実が詰め込まれている。
この事件はすでに、「ヒューゴー賞の歴史と権威を貶めるもの」として業界関係者およびファンたちの激しい怒りを引き起こしており、世界SF協会トップらの退任を求める声も巻き起こっている。「SF界のノーベル賞」が今後いったいどうなっていくのか。多少でもSF小説に関心のある身としては、やきもきさせられる事態である。