MMT信者がインフレ対策でよく主張する2つのこと
おまけに、インフレが実際に姿を現わすと、MMTの支持者たちは、インフレ全般を抑制するかわりに、より問題のある分野(最たる例はエネルギー分野)の需要を制限するか、供給を押し上げることが解決策になる、と主張することが多い。
この考え方の根底には、歴史の不思議な解釈がある。たとえば、1980年代、「最終的にインフレを終結させたのは、中東で交渉された平和条約[*2]と、カーター政権下の規制緩和の恩恵を受けた代替エネルギー源、つまり天然ガスの開発だった[*3]」という主張がその1つだ。
それと同様のことをする、というのが2022年中盤に出された提言だった。
どれも立派な提言だが、この文章が書かれる頃には、ウイルスパンデミックはインフレパンデミックへと姿を変えていた。アメリカのインフレ率を上昇させていた犯人はエネルギー価格だけではなかった。耐久消費財、非耐久消費財、サービス、そして遅ればせながら人件費。何もかもがどんどん値上がりしていった。
平和条約の実現を待つとか、単純に供給が需要に追いつくのを期待するというのは、希望的観測でしかなく、インフレ対策に有効な政策の選択肢とはいえなかった。
1940年、ジョン・メイナード・ケインズが有名な著書『戦費調達論』を記したのは、戦争がインフレの元凶だと正確に認識していたからだ。彼の答えは複雑で、戦争終結時まで「消費を繰り延べる」ための貯蓄政策を含むものだった。しかし、彼の提言は、アドルフ・ヒトラーとの「解決の交渉」から始まったりはしなかった[*5]。