MMTは「虚構」である

 単純に、MMTの支持者たちはインフレなど眼中にないのだ、と結論づけたくなる。誰でもそうだが、彼らもインフレが起こらないに越したことはない、と思っている。

 しかし、実際にインフレが起きると、彼らは目先の経済的な痛みを避けようとして、あわてて適当な言葉で取り繕ったり、説得力に欠く解決策を提案したりする

 そもそも、印刷機(現代における物価安定の最大の脅威)が政府債務を穴埋めする最も手軽で信頼できる道具だ、と信じる学派なのだから、それもしかたないのだろうが。

 彼らもまた、財政政策が金融政策から完全に独立していると口では言いつつも、テイラーとバートンと同じ道〔財政政策と金融政策が結びつくこと〕を歩んでいるのだ。

 しかし、従来のアプローチとMMTのアプローチには1つ、大きな違いがある。従来のフレームワークの支持者は、金融政策に対する財政支配〔財政当局が先導的な立場に立ち、金融政策が財政政策に従属している状態。←→金融支配〕を嫌う。政治的なご都合主義は物価の不安定性を高めるだけだ、と心配しているからだ。

 彼らはまた、財政政策と金融政策という2種類の政策的な「てこ」を分離できる、と思い込んでいる。そのほうがすっきりしているからだ。

 対照的に、MMTの支持者たちは、財政支配を支持している。その根底には、政府が印刷機の誘惑に逆らえるはずだ、という歪んだ歴史観があるように思えてならない。

 つまり彼らの世界では、信用できない存在は金融当局だけなのだ。だが、それは虚構の世界であり、じっくりと観察のなされた事実とはいえない


*1 よく用いられる代替策(または追加策)が配給だ。
*2 どの平和条約なのかは明記されていない。原油価格は1985年に暴落したが、イラン・イラク戦争は1988年の停戦まで続いた。いずれにせよ、インフレ体験は国によってまちまちだったので、金融政策の違いが重要な役割を果たしたことに疑いの余地はない。
*3 S. Kelton, ‘There are so many things we could be doing - together - to crush inflation’, June 2022, https://stephaniekelton.substack.com/p/catch-me-on-the-mehdi-hasan-show
*4 同上。
*5 J.M. Keynes, How to Pay for the War: A radical plan for the chancellor of the Exchequer, Macmillan and Co. Limited, London, 1940, https://fraser.stlouisfed.org/files/docs/historical/Misc/howtopayforthewar_1940.pdf
[邦訳:ケインズ『貨幣改革論 若き日の信条』宮崎義一・中内恒夫訳、中央公論新社、2005年に所収の「戦費調達論──大蔵大臣に対するラディカルな計画案」]