たびたびニュースを騒がせている「インフレ」。実は日本では実に40~50年ぶりであることをご存じだろうか(日本のバブル期には資産価格は上がったが、物価はほぼ上がらなかった)。インフレを経験として知っている人は少ない。そんななか、これから物価が上昇していく時代に突入しようとしている。
本連載では、ローレンス・サマーズ元米国財務長官が絶賛したインフレ解説書『僕たちはまだ、インフレのことを何も知らない』から、「そもそもインフレとは何か?」「インフレ下では何が起こるのか?」「インフレ下ではどの資産が上がる/下がるのか?」といった身近で根本的な問いに答えている部分を厳選して紹介する。
政府がインフレの誘惑に負けると何が起こるのか
究極的には、政府は増税に代わる狡猾な手段として、貨幣を印刷したいという誘惑に駆られる。そのメカニズムは状況に応じてさまざまだが、結果はたいてい同じだ。
その他の条件がすべて同じならば、インフレ率の上昇を招く金融緩和による政府借り入れの大幅な増加は、次の作用を及ぼすだろう。
(ⅰ)実質金利を低下させることで(現金資産に対する課税に相当)、貯蓄家から資産を奪い取る。
(ⅱ)為替レートを下落させ、輸入価格を上昇させることで(輸入品に対する付加価値税の増税に相当)、または物価を賃金と比べて相対的に上昇させることで(稀少資源を軍事転用しなければならない戦時中によく起こるように[*1])、消費者から資産を奪い取る。
(ⅲ)わずかばかりの貯蓄をインフレに強い資産ではなく現金で保有していることが多く、インフレ圧力の上昇に対する効果的な保護について交渉する能力に乏しい貧困者から資産を奪い取る。逆に、恩恵を受ける可能性があるのは、住宅ローンを抱える人々、価格支配力を持つ人々(大企業、労組加入の労働者)、そしてもちろん、政府の財政に責任を負う人々だ。しかし、このプロセスは秘密裏に進むとともに、このうえなく非民主的でもある。