マルチタイプフルスクリーンホームドアマルチタイプフルスクリーンホームドア(筆者撮影)

点と点がつながる感覚と言ったらいいだろうか。本連載ではJR西日本が進める、外部の技術・ノウハウを活用した「オープンイノベーション」の成果を紹介してきたが、さらなるビジネス拡大を図るため昨年11月、鉄道本部イノベーション本部に「ソリューション営業企画部」を設置し、本格的な外販に乗り出したのである。点が線につながった過程と、さらに線を網にする今後の展開について、同部の井上正文部長に話を聞いた。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)

ソリューション外販に向けて
人員を大幅に拡大

 JR西日本のソリューション外販の取り組みは2018年6月の「オープンイノベーション室」に始まった。当初の3人体制から、知的財産対応を強化するため、2020年に5人体制になったが、今回、社内各部門からの異動、公募とグループ会社からの出向者を含む20人体制に一挙拡大した。

 同社のオープンイノベーション戦略は社内のニーズ(必要性)と社会のシーズ(技術)を基にした「インバウンド」と、蓄積したソリューションを同業者のみならず、外部に幅広く販売し、社会課題の解決に貢献する「アウトバウンド」から成り立っている。

 ソリューション営業企画部はグループ内の技術開発・サービス改善の取り組みに対し、必要に応じてノウハウ、資金の両面からサポートするとともに、実現したソリューションのアウトバウンドを推進する役割を担っている。

 本連載2022年8月8日付「JR西日本が『技術の外販』始めた理由、自前主義を覆す3つの取り組み」で取り上げたように、同社は2018年に「20年後のありたい姿」を見据えた「技術ビジョン」を策定し、自前主義からオープンイノベーションへの転換を進めてきた。

 技術ビジョンは人口減少社会の到来などコロナ禍以前から予期されていた将来の課題に対し、魅力的かつ持続可能なサービスを提供する「20年後のありたい姿」を定め、そこからさかのぼって必要な技術開発を進めることを目的としている。

 一般的な企業からすれば「何を当たり前のことを」と思われるだろうが、鉄道には自前主義という高い壁がある。というのも巨大なシステムの集合体である鉄道事業は、鉄道特有かつ事業者ごとに最適化された技術・ノウハウから成り立っており、どうしても縦割り型組織になりがちだからだ。

 多数のグループ会社を抱えるJR西日本のような大企業ではなおさらで、同じような課題を各部門がバラバラに取り組んだり、固定観念に縛られて他の選択肢を見過ごしたり、リソースを浪費することもしばしばだった。

 ただ技術ビジョンは新技術を社内に取り込むインバウンドから出発しており、「さまざまなパートナーのみなさまとともにイノベーションを起こし、これまでにない新たな価値を生み出していきます」と記してはいるものの、アウトバウンドの明確な方針があったわけではなかった。

 というよりも、当時はインバウンド、アウトバウンドといった概念が明確化していなかったこともあり、まずは「オープンイノベーション」という流行語を使って外部とコネクトできる組織を作るのが狙いだったと井上氏は延べる。

 とはいえ、担当は3人。まずは「社外に問いかけする訓練」として、内部貢献のために開発したソリューションを、既につながりのあった企業に紹介していった。すると思いのほか好反応で、ともにオープンイノベーションを進める仲間を増やしていったのが最初の2年だ。

 そんな中、到来したのがコロナ禍だった。鉄道業界全体が疲弊する中、「JR西日本の技術を使ってもらえばいいのではないか。積極的にどんどん行ってみよう」として、他事業者、他業界への売り込みも強化して、ピンチをチャンスに変えていった。この過程は会社の方針に先駆けて「動きながら考えていった」と語る。

 同社の看板メニューは、既存データから自動改札機などの故障を予測し、適時適切なメンテナンスを行うことでコスト2割減を実現する「駅務機器CBM(Condition Based Maintenance、状態監視保全)」や、列車の運転台に取り付けたスマートフォンの加速度センサーを用いて線路の状態を測定する「簡易動揺スマホ」など、これまで人海戦術で対応してきた業務を省力化・効率化するソリューションだ。

自動改札機故障予測AI自動改札機故障予測AI(JR西日本提供)
運転台に設置した簡易動揺スマホ運転台に設置した簡易動揺スマホ(JR西日本提供)

 こうした実績を足がかりに2021年11月の第7回鉄道技術展に鉄道事業者本体として初めて出展すると、事業者本体が「AI」や「CBM」を内製化していることに注目が集まり、外販拡大を後押しした。

 井上氏は「なんとなくのオープンイノベーションから、堂々と収益化を目指すと言えるようになった」と振り返り、経営層に事業収益化の可能性を認めさせ、現在の方向性を確立するきっかけとなったと語る。