管理組合の前に立ちふさがる
配管更新への高いハードル
標準管理規約の中で特に注目したいのが上記の第21条2項で、2021年6月の改正の際に以下のコメントが出されている。
「第2項の対象となる設備としては、配管、配線等がある。配管の清掃等に要する費用については、第27条第三号の「共用設備の保守維持費」として管理費を充当することが可能であるが、配管の取替え等に要する費用のうち専有部分に係るものについては、各区分所有者が実費に応じて負担すべきものである。なお、共用部分の配管の取替えと専有部分の配管の取替えを同時に行うことにより、専有部分の配管の取替えを単独で行うよりも費用が軽減される場合には、これらについて一体的に工事を行うことも考えられる。その場合には、あらかじめ長期修繕計画において専有部分の配管の取替えについて記載し、その工事費用を修繕積立金から拠出することについて規約に規定するとともに、先行して工事を行った区分所有者への補償の有無等についても十分留意することが必要である」
上記のように、今回のテーマとしている給湯管(配管)の更新も、共用部分との兼ね合いで、管理組合での対応が可能であることがはっきりと規定されている。そこで、管理組合としては積極的に専有部分の配管の更新を促したいところだが、そこで直面する問題が出てくる。
まず、配管更新は室内での工事である点だ。床や壁、天井を解体しながら配管を更新していくが、工事には当然、お金がかかる。解体費、下地やボード代、仕上げの復旧工事費について、どこまでを管理組合の積立金会計でカバーし、どこまでを区分所有者の負担とするのか、という点を明確にする必要がある。
しかし、配管更新の方針を考え、管理組合と区分所有者それぞれの負担率を決め、それを総会で承認してもらうことが必要で、実現するにはかなり難易度が高いといえる。
何より大きな問題なのが、専有部分の配管更新に充てるお金がない、という点だ。長期修繕計画上、専有部分の配管更新は予算に含まれていないため、更新費用を拠出できるような経済状況にないマンションがほとんどだろう。
建物の構造や規模によって状況は異なるが、専有部分の給水管、排水管、給湯管といった配管を更新する場合、その費用はおおざっぱに見積もって、おおむね1戸あたり50万~100万円程度と想定される。100戸のマンションであれば、5000万~1億円という大きな支出になる計算である。おいそれと出せる金額ではない。
また、高経年マンションの場合、専有部分をスケルトンリフォーム(既存の床や壁、天井などをすべて撤去し、躯体のみの状態にするリフォーム)している住戸があるはずだ。リフォームの際、全配管の更新も行っている場合が大半だが、管理組合が専有部分の配管の更新に着手する場合、更新済みの住戸の取り扱いをどうするかという点も問題になってくる。
先に紹介した2021年6月改正時のコメントにも「先行して工事を行った区分所有者への補償の有無等についても十分留意することが必要」とあり、更新費用だけでなく、考慮しなければならない問題の多さもうかがえる。
今回は、給湯管の劣化による水漏れ事故について、管理組合としてできることを考えてきた。結論としては、管理組合として水漏れ問題に対応することは望ましいものの、現実的には「詳細なリフォーム規程の設定」「管理規約の改正」「配管更新を見据えた修繕積立金の予算立て」など、乗り越えなければならないハードルがいくつもあるといえる。
しかし、高経年マンションに限らず、マンションの将来を見据えたときに、管理組合には、考え得るあらゆる対策に積極的に取り組む存在であってほしい。その対策の結果が規約改正であり、管理費や修繕積立金の値上げとなっても、“攻め”の姿勢でマンション管理に向き合う管理組合の存在が、マンションのコミュニティーを成熟させ、マンションの価値を高めることにつながると筆者は考えている。