マスコミの「黙殺」は個人のみならず組織も「私刑」に

 この「人民裁判システム」の恐ろしいところは、松本さんのような個人だけではなく、国や行政、企業などあらゆる組織まで「私刑」を下すことができるところだ。
 
「組織の被害を訴える人」の主張にマスコミが乗っかってくれれば、「疑惑を否定する人」は霜月るなさんのように黙殺されていく。そうなると、疑惑の組織に対して、「反社会的」「犯罪者集団」というイメージが社会に広がり、大衆の憎悪が膨らんで迫害や排斥は始まる。

 そうなると、あとは何を反論しようとも「犯罪者の言い訳など信じられるか」の一言で耳を傾けてもらえない。警察に何かの罪で逮捕されたわけでもないのに、マスコミがあおった反社会的イメージだけで社会的に抹殺されてしまうのだ。

 非常にわかりやすい「成功事例」が、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)である。

 安倍晋三元首相の銃撃事件以降、この宗教団体には「反社会的なカルト」という社会的評価が定着している。しかし、オウム真理教のように組織的にテロを計画したとか、教団トップらが信者らに違法行為をするように指示して逮捕されたというような事実はない。

 では、「反社会的カルト」の根拠は何かというと、マスコミ報道だ。教団との間で献金などをめぐる民事訴訟をしている元信者など「被害者」の主張に基づく報道である。松本さんのケースとよく似た構造で当然、「これは偏向報道だ」と指摘する人もいる。

 例えば、教会の改革に携わっている中山達樹弁護士は「弁護士ドットコム」のインタビューで、教団に黒いところはないのかと問われて、このように述べている。

「黒いところはないと思います。ざっくり言えば。2009年以前のことは、私は昨年に依頼を受けたばかりなのでわかっていない部分があるかもしれませんが、下っ端がやりすぎちゃうとか、ちょっとしたいざこざは、いつでもどの組織にもある。

 ただ、少なくとも、2009年以後はトップの意思で黒いことをしてはいません。内部規定はクリーンで、人事評価は下からの評判を元にしているくらいです。

 実際、2009年以降に行われた献金について、ほとんど新たな訴訟は起きていません。ただ、15年以上前の判決を見れば個々人の行き過ぎもあったようにも読み取れるし、過去の活動には改善の余地もあったと思います。それは反省すべきところだし、今も現在進行形で反省しています。悪いところがあったらご指摘くださいということです」(『統一教会に「黒いところはない」「解散命令あり得ない」依頼を受けた中山弁護士が断言』)

 中山弁護士は、コンプライアンス(法令遵守)やインテグリティ(高潔さ)の専門家として、海外などでも豊富な実務経験を持つ一流の国際弁護士だ。旧統一教会の信者でもない。この組織が抱える課題や、改革の進捗などを語ってもらうには、これほどの適任はいないだろう。

 しかし、中山弁護士の見解が「ミヤネ屋」などのマスコミで取り上げられることはない。いわゆる「旧統一教会報道」で「旧統一教会に詳しい弁護士」として登場する弁護士といえば、紀藤正樹弁護士をはじめ「被害者」の支援をしている全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)の弁護士と相場が決まっており、中山弁護士の主張だけではなく、その存在まで大手メディアには「黙殺」されている。