「性加害疑惑」と「旧統一教会」報道の共通点

 松本さんの「性加害疑惑」の被害女性たちはすべて「文春」が握っている。今さらマスコミ各社がこの件を追いかけたところで、彼女たちのような被害者を見つけることは難しい。となると、マスコミがこの報道をするにあたって、進むべきは「文春」への完全依存しかない。

「文春」が報じたことを正確に解説をして、「文春」の主張を世に伝えていく。その一方で、「文春」を否定するような反論は「黙殺」する。

 つまり、松本さんに関する疑惑報道と旧統一教会報道は見え方がまったく違うが、根っこは同じなのだ。「文春によりますと」と「鈴木エイト氏によりますと」と依存をしている相手が違っているだけで、どちらも「アクセスジャーナリズム」が引き起こした偏向報道である。

 さて、いろいろ偉そうなことを語らせていただいたが、実は何を隠そう、この私もマスコミから「黙殺」されている当事者だ。

 安倍元首相の殺害以降、旧統一教会の取材を進めてこれまで50人以上の現役信者や教団幹部たちにインタビューをしてきた。ちょっと話を交わした信者も含めたら100人を超えている。教会や自宅にも何度もお邪魔させていただいた。

 また、「ミヤネ屋」や鈴木エイト氏が遠目にしか見ることしかできなかった、韓国・清平にある教団本部の内部にも足を踏み入れたり、「日本政治を陰で操る旧統一教会のフロント組織」とマスコミが散々叩いている国際勝共連合の集会や街宣に密着したりしている。こういう取材を続けてきてたどり着いた結論は、いわゆる「旧統一教会報道」がかなり「被害者」側のバイアスの強い偏向報道だということだ。

 断っておくが、紀藤弁護士や鈴木エイト氏や「小川さゆり」を名乗る女性たちの言っていることが「間違っている」などと言いたいわけではない。

 ただ、松本さんの「性加害疑惑」を否定する人たちがいるように、マスコミで元信者たちが語っている話を否定する現役信者たちもたくさんいる。国内だけでも数万人も信者がいる宗教団体を俯瞰して理解するには、鈴木エイト氏や元信者の人たちの証言だけで十分ではない。彼らの話と同じくらい、現役信者の言い分もマスコミが取り上げなければフェアではない、と言いたいのだ。

 こういう話を銃撃事件後、繰り返し主張してきた。本にもまとめた。しかし、テレビや新聞に働く友人・知人に話をしてもだいたい相手にされない。マスコミにとっては「反社会的なカルトの肩を持ち、報道を否定するようなこと」を言っている私も「黙殺」すべき存在ということなのだろう。

 そこで、社会から完全に抹殺されてしまう前に、これまでの取材でわかった事実を少しでも多くの人に伝えておこうということで、3月24日にオンラインイベントを企画した。

 これまで述べたような旧統一教会報道の問題点にとどまらず、そもそも旧統一教会という組織が、自民党と距離を縮め、全国弁連と敵対するきっかけになったという「スパイ防止法」などについても、スパイ事情に詳しい国際ジャーナリストの山田敏弘氏とともに語っていく。最後に宣伝のようになって恐縮だが、ご興味のある方はぜひ参加いただきたい。

(ノンフィクションライター 窪田順生)

松本人志問題で文春否定の証言を「黙殺」、マスコミが私刑を下す“偏向報道”に走るワケ