ネガティブ感情を書き換える方法
すでに説明したとおり、最初に湧いてくる強い感情というものは、外界の脅威に備える生存本能であり、簡単にコントロールすることはかなり難しいと言えます。
けれど、現実には危険に見える状況に直面しても逃げない人もいます。
それは、私たちの脳が経験したり学習したりすることで、「ある対象=危険」という認識を変えることができるからです。
喩えるなら、以前は蛇を見たら必ず逃げていたけれど、「この種類の蛇は無毒で人を襲うことはない」と知ったり、あるいは「このくらいの危機ならが自分は安全に乗り切ったことがある」と以前の体験に基づき、落ち着いて対処できるようになるといったことです。
強迫性障害という精神疾患の場合、トイレがとてつもなく不潔に感じて、怖くて便座の蓋や流すときに動かすハンドルなどにも触れなくなってしまう人もいます。トイレにまったく触れないとすると日常生活ではとても困るわけですが、そのような場合は曝露療法というセラピーが取り入れられることがあります。「嫌な感情を引き起こすものに少しずつ慣れていく」というものです。
例えば、トイレに入るところから始めて、時間をだんだん長くしていく。「不安を感じるが、それでもトイレの中にいて自分には危機が及ばなかった」という経験を通して脳に新しい情報を与えていくのです。落ち着いてトイレにいられるようになったら、次は手袋をはめて便器に触れてみる。「手袋をはめて便器に触れてみると、さらに強い不安を感じたが、時間が経つにつれてその不安も少しずつ軽減した」というように、段階的に「これは強い不安を感じなくてもいいものだ」と脳が情報を得る機会を与えていき、慣らしていくといった方法です。
このとき段階を踏みながら少しずつやっていかないと、かえって不安を増強することになりかねないので注意が必要ですが、新しい経験を通して、「嫌だ」「不快だ」という感情とつながっている行動や場所に関して、それに付随する感情を書き換えることは可能なのです。
内田舞 著
このように脳は可塑性を持っており、この可塑性を利用してネガティブな感情をポジティブな方向に向けるような考え方を築く手法が「再評価」でもあるのです。経験や学習は再評価のプロセスの一つになります。また、再評価は練習を繰り返すことでもっとうまくできるようになるものです。
再評価を繰り返し練習し、うまくできるようになってきた人の脳をMRIでスキャンすると、はじめの頃よりも論理的に考える脳部位の前頭前野と、感情を生み出す脳部位の扁桃体の働きのコラボレーションが変化していることが確認され、日常的にポジティブな考えを抱きやすくなるという研究もあります。
脳レべルでポジティブ思考の癖が築かれうることを示す研究結果です。ですから、仮に今ネガティブ思考でも一生このままだと諦めなくても大丈夫なのです。