「ネガティブ思考」は、生まれつきか?

 この点に関して、私のチームの研究を一つご紹介します。うつ病の発症には遺伝要因が影響することがわかってきているのですが、脳機能における遺伝的影響を調べた研究です。

 具体的には、うつ病の既往歴がある親から生まれた子どもと、そうでない子どものグループに分けて、ネガティブな刺激とポジティブな刺激に対する脳の反応差を観察しました。

 実験では、子どもたちにMRIスキャナーに入り、人の顔の写真を見てもらいました。写真は嬉しそうな顔や、怒っている顔、悲しそうな顔、無表情の顔などさまざまです。写真ごとに子どもたちの脳のどの部位がどれだけ活動しているかを計測しました。

 結果は、うつ病の遺伝要因のない子どもたちはどの表情を見てもだいたい脳の活動レべルは同じくらいでした。

 一方、遺伝要因がある子どもたちはネガティブな表情を見たときに「扁桃体」の活動が活発になり、ポジティブな表情を見たときにはほとんど反応がなかったのです。

 この研究結果からわかるのは、うつ病の遺伝要因がある子どもたちは、ポジティブな出来事よりもネガティブな出来事に対して感情が強く揺さぶられる。つまり、もともとの脳の働きとして、外界からの刺激に対して負の感情を強く持ちやすくなるタイプの人もいるということです。こうした生物学的な要因が、うつ病になるリスクを引き上げていると考えられます。

 それゆえ「ネガティブ思考なのは生まれつきか?」という問いに対しては「YES」、ある程度生まれもった思考の傾向はあるという答えになります。

 うつ病には遺伝要因だけでなく、家庭や学校、職場といった環境的な要因も関係しています。ただ、同じような環境で、同じような経験をした人の中にも、うつ病になる人とならない人がいます。それを左右するのは遺伝要因を含む生物学的な要因の影響が大きいと考えていいでしょう。

 そして、ここからが重要なポイントです。遺伝要因が関係しているなら、ネガティブ思考は変えられないのではと疑問に思われた方もいるかもしれません。しかし、答えははっきりと「No」と言えるのです。