「偶然性」を計画に取り入れる
「プランド・ハプンスタンス・セオリー」

 第1回のノーベル物理学賞を受賞したドイツのヴィルヘルム・レントゲン博士のX線の発見など、科学の発明の多くは、実は偶然性の中で発見されています。ロジックで考えに考え、途中で行き詰まる。そして、ブレイクを入れたときに人はまったく別の何かに気づく。

 散歩に出かけたとき、風呂やトイレに入っているときに、車の窓から外を眺めているときに、恋人や友人とのとりとめのない会話の途中に、そんな何気ない瞬間に発見やひらめきが生まれる経験を多くの人がしたことがあると思います。

 この偶然性は「セレンディピティ」という言葉でよく表現されます。この言葉はもともと「セレンディップの三人の王子」という古いペルシャを舞台にした寓話をもとにしていて、セレンディップというのは、アラビア語でスリランカのことです。

 この物語では、スリランカの三人の王子たちはさまざまな困難に出会いますが、その一見トラブルと思える事件の中に幸運を見出し、成長しながら旅を完結させます。ここから、「偶然にものをうまく見つけ出す能力」のことをセレンディピティと言われるようになりました。

 しかし重要なのは、王子たちは偶然、幸運に巡り合ったわけではないということです。王子たちは「探していたものが見つかった」のではなく、「探してもいなかったものが見つかった」のです。自分の想像の範疇を超える、まさに「ラテラル」な発見です。

 つまり、「たまたまいいことが起きた」というのとはまったく違うのです。何も行動しなければ偶然が生まれないことに加え、起こった出来事をどうとらえ、どう対応していくかによっても未来は大きく変わるということをこの物語は教えてくれます。

 未来への視点を変えるためには、まず計画の完全性を追求するのではなく、途中で起こるはずの偶然性を前提として動き出すことです。

 このような考え方で有名なのが、キャリア形成を研究しているスタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授による「プランド・ハプンスタンス・セオリー」という理論です。これは「計画された偶然性」と呼べるもので、個人のキャリアの八割は予想もしない偶発的なことによって決定されるという研究です。

 その偶然を計画的に設計し、自分のキャリアをよりよくしていこうという考え方でもあります。この理論によると、「計画された偶然性」とは以下の行動特性を持っている人に起こりやすいといわれます。

1. 好奇心(新しい成長のチャンスを模索する)
2. 持続性(失敗に負けずにトライし続ける)
3. 柔軟性(姿勢や状況を常に変える)
4. 楽観性(チャンスは必ずやってきて、それを自分のものにできると考える)
5. 冒険心(結果がどうなるかわからなくても行動を起こす)

 クランボルツが言うことを要約すれば、「人の興味や価値観、状況は変わっていく。いつでも、どこでも変わっていけるオープンマインドが大切だ」ということです。彼は、個人が抱えている問題や感情に触れるよりも、「行動」にフォーカスし、時間をかけたシミュレーションやロールプレイよりも、「行動で現状を打破していく」という考えを持っています。

 確かに偶然性を引き起こし、引き起こされた偶然性に対応するには、「オープンマインド」を持って「行動」するしか方法がなさそうです。僕が「ノマド・トーキョー」という生活実験プロジェクトで出会ったライフデザイナーたちもまた、クランボルツが言う5つの素質を持って自ら選択し、行動している人たちばかりでした。

 プランニングに時間をかけすぎないこと。プランをそのまま実行するのではなく、偶然起きた出来事を楽観的にとらえること。好奇心でもって次につながるヒントを探し、柔軟に対応していくこと。そんなライフデザインのイメージを少し理解していただけたでしょうか。(最終回に続く)※4/11掲載予定


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