理念経営のキーパーソンたちとの対談シリーズ「理念経営の実践者たち」もいよいよ第10弾となる。今回お話しいただいたのは、北欧雑貨などのECサイト「北欧、暮らしの道具店」を手がけるクラシコム代表取締役の青木耕平さん。ECサイトのみならず、オリジナル商品の企画開発、暮らし関連コンテンツの配信、タイアップ広告など、多岐にわたる事業を展開しているクラシコムの根底には「フィットする暮らし、つくろう。」というミッションがある。
理念経営2.0』著者である佐宗邦威さんは、書籍の構想段階から青木さんに独自インタビューをし、クラシコムの理念経営に衝撃を受けていたという。それから5年が経過した先日、同社が理念体系を刷新したばかりのタイミングでお二人の対談が再び実現した。今回のテーマは「クラシコムのミッションができるまでの経緯」について(第1回/全5回 構成:フェリックス清香 撮影:疋田千里)。

必要に迫られて理念をつくっただけ

佐宗邦威(以下、佐宗) 『理念経営2.0』構想段階でマザーハウス副社長の山崎大祐さんにお話を聞いたときに「青木さんにも絶対にお話を聞きに行ったほうがいいよ」と勧められたんです。それで以前にインタビューのお時間をいただいたわけですが、正直なところ「ここまで考えている人はなかなかいない…」と衝撃を受けました。

◎参考リンク:
【対談 マザーハウス・山崎大祐×佐宗邦威】
職場に共通言語がある会社、みんなの言葉が通じない会社、その違いとは?

https://diamond.jp/articles/-/332193

青木さんには出版後にぜひまたお話をお聞きしたいと思っていたのですが、2024年1月に新しい理念体系について社内向けに明文化されたそうですね。今日は刷新された内容も含めて、青木さんがどんなことを考えてクラシコムの理念を使っていらっしゃるのかをお聞きしたいです。

青木耕平(以下、青木) 佐宗さんの『理念経営2.0』はずいぶんと反響があるみたいですね。佐宗さんの本だけでなく、今、理念経営が改めていろいろなところで議論されています。僕自身は、自分たちの必要に迫られてつくっただけなので、今こんなに世の中の会社で理念が必要とされているのが不思議なんです。いろいろな企業を見てこられた佐宗さんは、どんな事情があるとお考えなんでしょうか?

佐宗 2つ理由があると思っています。これまでビジネス書やビジネス上の議論で取り上げられるのは「どう儲けるか」の話がほとんどでした。でも、ここ10年くらいのあいだで「ビジネスが儲かっていても、必ずしも正義だとは限らない」と感じる人が増えてきています。そういった環境下では、組織としての理念をはっきりさせておかないと、いろいろと困ったことが起きてきてしまう。お金だけがみんなの価値の指標ではなくなっているのに、理念がないままだとどうしても経済価値を優先してしまうからです。

もう1つの理由は、社会が多様性を重視するようになったことです。これまではリーダーの独断に従っていれば、会社全体としてもそれなりにパフォーマンスを出せる時代が長く続いてきたと思います。しかし今は、それだけだと人がついてこなくなってしまう。いろんな人の多様性を包含する「旗」を掲げないと、人が集まりにくくなっているんだと思います。

青木耕平(あおき・こうへい)

1972年、東京都生まれ。株式会社クラシコム代表取締役。2006年、実妹である佐藤友子氏と株式会社クラシコム共同創業。2007年、賃貸不動産のためのインターネットオークションサイトをリリースするが、1年ほどで撤退。同年秋より北欧雑貨専門のECサイト「北欧、暮らしの道具店」を開業。現在は北欧のみならず、さまざまな国の雑貨・アパレルのEC販売を行うほか、オリジナル商品の企画・開発、広告企画・販売など、多岐にわたるライフスタイル事業を展開中。