アバルト500eは黎明期のBEVとして
お手本のような存在

 不満があるとすればバッテリー容量だ。満充電の航続距離がカタログ値でたったの303 ㎞(WLTCモード)。これだけ走れば、日常生活に何ら支障のないことくらい、頭では理解している。家のガレージに充電環境があれば航続距離200㎞程度でも十分だ。それでも不安になるということは、アタマがまだまだガソリンで動いているからに違いない。

 多くの人が同じように感じている。そんな不安を乗り越えるだけの魅力があるのかどうか。そこが現在のBEVに問われている。環境やエネルギーといった地球規模の問題を振りかざしつつだ。もっとも、フィアット&アバルト500eは将来の拡張性も盛り込まれて設計されているようだ。バッテリー周辺テクノロジーが現在よりも進化したとき、アバルトはさらに隙のない1台に近づくに違いない。

 アバルト500eはクルマとしてとてもよくできている。完成度は抜群に高い。プラスしてスポーツカー好きの心を満たすハンドリング性能も備わっている。デザインセンスと相まってクルマ運転好きの所有欲をかき立てる。アバルト500eは黎明期のBEVとしてお手本のような存在だろう。

 とはいえ、いざ自分で乗るとなるとエンジン仕様のアバルト500系も捨て難い。そろそろBEVがわが家にあってもいい頃合いだけど、マニュアルシフトで楽しむ従来のアバルトもラストチャンスかと思うと心が揺れる。クルマ選びは、実に悩みどころが多く、しかも楽しい。だからやめられない。

(CAR and DRIVER編集部 報告/西川 淳 写真/山上博也)

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