理念を「法」にしていくための試行錯誤

佐宗 最近、青木さんはChatGPTで動くBotづくりをされていると伺いましたが、今おっしゃったような変化を見据えたトライアルなんでしょうか?

青木 そうですね。この背景にあるのは「理念」だけでなく「法」というものに対する問題意識です。僕は最近、「僕が存在しない世界」のことをよく想像しているんです。組織として成熟していく流れを考えたとき、クラシコムの理念の部分はかなりよく出来上がってきている。となると、次に僕がいなくても組織が動くようになるためには、「法のようなもの」が必要になるのかもしれないなあと考えているんです。

古代中国では孔子を始祖とする儒家という集団が出てきて、言ってみれば理念のようなものを説きましたよね。それが社会の中に実装されていったわけですが、それだけでは合意形成がうまくいかない部分が出てきた。そこで法によるガバナンスを説くいわゆる法家が登場して、理念をシステムとして成り立たようとする動きが出てきたわけです。

そのための実験としてつくってみたのが「僕の代わりに判断をしてくれるAI」です。じつは以前、社内向けに『クラシコム・マネジメント・プレイブック』というものをまとめかけて、原稿を書いていた時期があるんです。もともとA4用紙3枚ぐらいにするつもりだったのに、考えていることをいろいろ盛り込んでいったら、結局5万5000字くらいになってしまいました。

佐宗 すごい!

青木 さすがにそれだけの分量のものをみんなに読ませるわけにはいかないので、泣く泣くお蔵入りにしていたんです。ですが、あるときふと思いついて、その5.5万字のテキストをAIに食べさせたら、どんなことが起きるだろうと考えたんですね。

この原稿以外にも、これまで僕が書いてきたものをChatGPTに学習させたら、社員が困ったときに気軽に相談できるコーパイロット的な存在になるんじゃないか。そういうものがあれば、法のような厳密なルールをつくらなくても済むんじゃないか、と考えたわけです。

佐宗 なるほど、そういう文脈があったんですね。

青木 でも、やってみた結論として感じているのは、「僕がいない世界」に向かうにはやはりクラシコムの「法」はつくらざるを得ないのかなということですね。だとすると、僕の次の仕事は、クラシコムの理念を表現した法律を整備していくことなのかなと。もちろん、法というツールは非常に強力で、負の側面もあるので、どういう形がベストなのかは悩ましいところですが。

佐宗 クラシコムの理念に重みがあるのは、やはり5万5000字も書けるくらい青木さんが思考を積み重ねているからなんでしょうね。そして今後は、各企業にとっても、そういう「思考の総量」が勝負どころになってくるんだろうなと感じました。たくさんの貴重なお話をありがとうございました!

(対談おわり)