理念経営のキーパーソンたちとの対談シリーズ「理念経営の実践者たち」もいよいよ第10弾となる。今回お話しいただいたのは、北欧雑貨などのECサイト「北欧、暮らしの道具店」を手がけるクラシコム代表取締役の青木耕平さん。ECサイトのみならず、オリジナル商品の企画開発、暮らし関連コンテンツの配信、タイアップ広告など、多岐にわたる事業を展開しているクラシコムの根底には「フィットする暮らし、つくろう。」というミッションがある。
『理念経営2.0』著者である佐宗邦威さんは、書籍の構想段階から青木さんに独自インタビューをし、クラシコムの理念経営に衝撃を受けていたという。それから5年が経過した先日、同社が理念体系を刷新したばかりのタイミングでお二人の対談が再び実現した。ラストとなる今回のテーマは、今後の人間社会と理念について(第5回/全5回 構成:フェリックス清香 撮影:疋田千里)。
わざわざ経営者が「数字」を語る意味がなくなってきた
佐宗邦威(以下、佐宗) ここまで、青木さんの経営哲学とクラシコムの企業理念との関係をお聞きしてきました。青木さんにとって理念は「マネジメントの道具」であると。しかし、今までの経営の常識だと、マネジメントにおける道具といえば「シェア20%アップ」「利益10億円」というようなお金・数字でしたよね。青木さんにとって、会社の数字と理念はどんな関係にあるのでしょうか?
青木耕平(以下、青木) クラシコムは株式会社ですから、営利事業を運営していくことは大前提です。よく驚かれるのですが、僕は数字をめちゃくちゃ見ます。専門分野の一つが会計と言えるぐらい、会社のお金の部分は細かく見るようにしているんですよ。
といっても、以前に比べれば、会計関連のデータはSaaS上で非常に見やすくなりましたよね。誰でも簡単に分析できて、手を入れるべきところがすぐにわかる。また、何十億というビジネスを立ち上げるまでの時間軸も、ものすごく短くなっています。たとえばインスタでアテンションをとってブランドをつくれば、そういうことができてしまう。
要するに、数字で語る仕事・お金について考える作業は、ずいぶん楽になってきています。さまざまなツールがあって、どうやったらいいかの情報も出回っているので、誰でもふつうにできる仕事になってきてしまっている。わざわざ経営者が数字やお金についてしゃべる意味がなくなっているように感じています。
1972年、東京都生まれ。株式会社クラシコム代表取締役。2006年、実妹である佐藤友子氏と株式会社クラシコム共同創業。2007年、賃貸不動産のためのインターネットオークションサイトをリリースするが、1年ほどで撤退。同年秋より北欧雑貨専門のECサイト「北欧、暮らしの道具店」を開業。現在は北欧のみならず、さまざまな国の雑貨・アパレルのEC販売を行うほか、オリジナル商品の企画・開発、広告企画・販売など、多岐にわたるライフスタイル事業を展開中。